第4章 回避【R-18】
「シド、
今回はプリンセスの命が助けられたから良かったものの、
命に関わるような重要な情報をこちらが把握できていないのは大問題なのです。
敵なのか味方なのかも分からない何者かが、
プリンセスの命が狙われることを予め知っているということは…
『逆に』利用することも可能ということですから」
それはすなわち
逆手に取られた場合、今度こそプリンセスの命が危ないということを意味する。
シドは無表情な、冷徹な表情をしていた。
「…依頼人の情報は簡単に教えられねぇよ」
ジルの鋭い目線に、シドは全く動じず答えた。
「今のお前の様子だと、
依頼人のこと殺しかねねぇ目つきしてやがるじゃねぇか」
「…そのようなことは、ありません」
そこで初めてジルは
冷静さを欠いた自分の視線の鋭さを自覚し
目線を落とした。
「ま、お前が絶対に手を下さねぇと約束するなら…依頼人のこと紹介してやってもいいけど?」
「…そのような物騒なことはいたしません。約束します」
「……ま、そんなこと俺がさせねぇけど」
「…?何か言いましたか?」
シドの最後のつぶやきは、ジルの耳には届いていなかった。
シドはそのまま踵を返した。
「三日後の夜、城下で会わせる。時間作れ」
振り返らずにそう告げると、ジルの返答も待たずに部屋を出てしまった。
三日後の昼。
ウィスタリアの城下には、夏を予感させるような激しい雨が降っていた。
空は明るい。あまり長引かなさそうなそのスコールの中
イリアは行きつけの小さな古書店へ向かっていた。
細い路地から更に裏へ入り
小さな酒場の奥にある入り口が、この古書店の入り口だ。
知る人ぞ知る店なのだが、中には絶版になった専門書や国外の専門書もあり、図書館よりも貴重な本が揃っている。
そこには、天文学の本もかなり揃っているため
イリアは時折この書店を訪れるのだった。
外のスコールの音が僅かに聞こえる店内で
イリアは天文学の棚を一通り眺めると
お目当ての本を見つけ更に奥へ進んだ。
そこには小さな椅子の並ぶ「読書コーナー」があるのだった。