第3章 未来予知
イリアが瞬きをした次の瞬間
白黒のビジョンは消えた。
夜明け前の淡い空は全体に広がり、かなり時間が経ったようだ。
そして目の前に
声の主はいた。
ミッドナイトブルーの瞳が
吐息のかかる距離にあった。
「シド」
「……なんでこんなとこで寝てやがる」
「……」
イリアはゆっくり体を起こし、すぐそばでしゃがんで顔を覗き込んでいたシドを改めて見やった。
「久しぶりだね」
「まぁな……お前、大丈夫か?」
「?」
「顔色……ひでえぞ」
先ほどのビジョンが思い出される。
「もうすぐ夏とはいえ、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ」
「……うん」
遠い目をしているイリアがいつもと様子が違うことに気づいたシドは、彼女の髪をくしゃっと乱した。
「…やっ!」
イリアがシドの顔を見上げると、いつもの意地悪な笑みはなく、真剣に案じているような真面目な顔をしていた。
「シド……」
「何があった。言え」
イリアがシドの瞳をまっすぐ見据えていると
シドは僅かに目を細め、イリアの顎を掴んだ。
すると、そのままイリアの乾いた唇に自分の唇を重ねた。
一瞬の出来事に驚き目を見開いたイリアだったが
乾いた唇がシドに潤され
角度を変えてどんどん深まっていく口づけに
ゆっくり目を閉じた。
シドの舌から伝わる体温が
冷えた体を、胸の奥を、
少しずつ温めて溶かしていってくれるようだった。
シドは口づけたまま
イリアの肩を掴む。
そしてゆっくり離れ、顔を覗き込むと
「……寒くて震えてるわけじゃねえんだな」
言われて初めて
イリアは自分の身体が震えていることに気づいた。
「…ねぇ、シド」
「あ、なんだ」
「……近いうちに、王宮でパーティがある?」
イリアの口から出てきた
意外すぎる言葉に
シドは目を見開いて言葉を詰まらせた。
「……ああ、確か三日後にある」
先日行われたお披露目セレモニーに続き
今度開催されるパーティは
新しいプリンセスとの交流会…
事実上の「次期国王候補選定会」だった。