第3章 未来予知
イリアの目の前に広がった光景は
初めて見る場所ではなかった。
(これは……王宮の?)
大広間だ。
ひと月前にイリアが訪れた時とは違い
そこにいる人々は
身なりからして身分の高い者ばかりだ。
ぱっと見の印象からして
若い男性が多く目につく。
(…あそこにいるのは)
大広間の全体が見渡せる少し高い場所
ジルがプリンセス選定の宣言をした場所には
浮かない顔をしたプリンセスが佇んでいた。
ひと月前に比べれば随分とプリンセスらしく
堂々とした立ち姿ではあったが
表情は少し陰っている。
少し離れた入り口の近くには
イリアがいつも空の中に見ていた
ジルの姿があった。
未来予知のビジョンのため、白黒に映っているが
変わらぬ深紫の瞳はイリアにはすぐ分かった。
(ジル様…)
ジルから視線を外し辺りを見回すと
視界の隅に黒い霧が映った。
(えっ?)
初めて見るビジョン。
黒い霧は一人の男の周りにまとわりついており、その霧に包まれた男はプリンセスへと近づいていった。
男はプリンセスへ挨拶をすると、馴れ馴れしく話しかけ始めた。
嫌な顔一つせず彼女が真摯に受け応えていると
突然
男は懐から
白く輝く刃を振りかざした。
「あっ!!!」
その瞬間、黒い霧が消え
男の姿がはっきりと見えた。
(えっ!)
緑色の貴族服。
次の瞬間、広がる赤。
ざわめく人々の声や音楽は
なぜか
一つも聞こえない。
完全無音の空間に
イリアは放り出されてしまった。
(色が……)
スローモーションに見える
白黒の未来予知に
初めて「色」が見えた。
初めて見た色は
プリンセスの血の赤と
犯人の服の緑…。
いつもよりはっきりと感じた
妙に現実感のあるビジョンに
うっすら感じていためまいはより濃くなっていく。
(なにこれ…もう……)
頭を抱えながら
白黒と、緑と赤しかない無音空間にうずくまっていると
「……い、おい!!」
静寂を切り裂く低い声が
すぐ耳元で聞こえた。