第2章 プリンセス選定
「いーじゃねえか、どうせもう帰るだけなんだろ」
なにも反論できないイリアはせめてもの抵抗のつもりで頬をふくらませた。
シドはそれが余計面白くて仕方がなかったのか
更に笑う。
「…ちょうど俺も帰るところだ、送ってく」
「…いいよ…」
「すねんなって。お前はプリンセスって柄じゃねえだろ」
「そんなの分かってる」
答えるなり、イリアは結いあげて止めていた一本の飾りピンを抜き去ると、ブルネットの髪が一気に下ろされた。
結いあげていたせいか大きくうねったその髪は、いつもよりもイリアに色香を漂わせるようだった。
一瞬目を奪われたシドは、それを悟られないように続ける。
「なぐさめてやろうか?おごるぜ?」
「…いい、今日はやることあるし」
「あ?ねえだろ」
「決めつけないで」
ちょうど二人は宮殿の外へ出て、正門への道へさしかかるところだった。
イリアはもう夕暮れ色に染まった空を見上げる。
「今日は『日』がいいの。天球図、描きたいから」
「へぇ…そうかよ」
先を歩くイリアの後ろ姿をしばらく眺めてから
シドは早足で追い付き、イリアのお尻を服の上からわざとつかむ。
「ひゃっ!」
「色気のねえ声」
追い越して先を歩くシドに、イリアは怒りをぶつける。
「なんでこんなとこでそういうこと!!」
「…その服、ぜんっぜん似合わねえ」
「ちょっと!!!シド!!!」
後ろから背中を叩いてもびくともしないシドは、イリアのことを鼻で笑いながら先を歩いて行った。