第2章 プリンセス選定
Jill side----
「へぇ、あの二人って、知り合い?」
廊下の窓から、
正門へ向かう二つの影を見つめるジルに、レオは声をかけた。
「…どうやらそのようですね」
レオの角度から、ジルの表情は見えない。
「ねぇ、ジル…あのイリアちゃん、『わざと』外した?」
ジルは微動だにせず答える。
「わざと、などあり得ません。陛下とウィスタリア、そして次期国王有力候補のハワード卿のことを考えて選定したまでです」
レオはにやりと笑う。
ジルが一気にまくし立てるように告げる時は、
図星の時。
「ふーん、そう。じゃあ、俺の知るイリアちゃんの情報は必要ないね?」
ジルの肩が僅かに揺れたのを、レオは見逃さなかった。
「……レオも知り合いだったのですか?」
「向こうは気づいてなかったけどね…城下の書店で何度か顔合わせてる。すっごくマニアックでへんぴな場所にある書店だから、来る客限られてるんだ」
「そうでしたか」
「…ん?もういいの?」
それ以上聞いてこないジルに、レオがわざとらしく問う。
「…落選させた女性たちの情報をいちいち尋ねるほど、私は暇ではありません」
「あ、そう」
これ以上つついてもボロを出しそうにないと感じたレオは、ふっと笑ってその場を去っていった。
「……」
(王宮に仕える身でもない限り、選定に落選すれば…一般庶民の女性はもうこの城を訪れることはほぼ無い)
二つの影はもう正門の彼方へ消え、ジルからはもう確認することはできなかった。
(おそらく、私が城下を訪れるか、奇跡でも起きない限り会うことはないのだろう…それでも)
広い廊下の真ん中で
招待状に添えられた案内図らしき紙とにらめっこしながらキョロキョロ見回したりうつむいたりする
せわしないブルネットの髪
声をかけた時に向けられた
榛色のまっすぐな瞳
(……それでも、もしプリンセスに選んでしまったら……)
見た目の美しさは、申し分なかった。
清楚でありながら、どこか色香を放つ眼差しは
プリンセスにしてはならない…そう思ってしまった。
選んでしまったなら
最もそばに居られる代わりに
…絶対に結ばれることのない存在になってしまうからだ。