第2章 プリンセス選定
「あのさ、イリアちゃん、俺とどこかで会ったことある、かな?」
「えっ?」
思い当たるフシがない。
一度見た客は大体覚えているのだが、客では会っていないようだ。客の連れだったのだろうか…
すると
コホン、と咳払いが聞こえる。
「…レオ、彼女はプリンセス選定会にいらした方です。むやみに口説かないで下さい」
ジルの冷ややかな視線が、レオと呼ばれた銀髪の男性に注がれる。
「ごめんごめん、そういう意味じゃないって」
既にレオの肩に乗ったセバスチャンが、咎めるようにレオの顔に擦り寄る。
すると、ジルはふと中庭に視線を投げた。
中庭をしばらく注視すると
「レオ…申し訳ないのですが少し用を思い出しました。イリア様を控室へお連れ願えませんか?」
「うん、いいけど」
「イリア様、申し訳ありませんがここからはレオが案内いたしますので私はこちらで失礼致します」
完璧な笑顔を見せ、ジルは頭を軽く下げた。
「ジル様、ここまで案内していただきありがとうございました…」
イリアは丁寧にお辞儀を返し、レオの後をついていくことになった。
振り返ると、ジルはしばらく中庭を見つめた後誰かに声をかけているようだった。
(中庭に、誰かいたのかな…)
気にはなったが、イリアにはその結末や理由を知るすべはなかった。
結論から言うと
イリアはプリンセス選定には落選した。
そして同時に、ウィスタリアに新しいプリンセスが誕生した。
レオに案内された控室から大広間に移動させられた後
ジルが一人の女性を連れて姿を現し
「プリンセスの選定は終了いたしました」
と、高らかに宣言されたのだった。
ジルの傍らにたたずむ女性は
何が何だか分からない、といった表情で不安そうにおどおどしていたが
顔立ちといい佇まいといい、他の人にはないものを持っているのはイリアには良く分かった。
(ジル様が選ぶのも納得・・・きっと)
さきほど中庭にいたのは彼女なのだろう。
会場にいる多くの女性が、ぼやいたり肩を落としたりしてその場を去ろうとする中
イリアは少し高い所に立つジルとプリンセス候補から目線をそらせずにいた。