第16章 婚姻式
それは
シンプルだがとても上質で丁寧に作られた
真っ白なドレスだった。
ところどころに刺繍がほどこされているのが
光の加減で見える。
今日プリンセスが着ていたものよりは大人しいデザインだが
シルクの光沢がとても美しく光っている。
「ユーリ……これ、どうしたの?」
「イリアさん、これ、着て下さい」
「……はぁ?え、今??」
ユーリはにっこり笑顔でうなづく。
イリアはわけがわからなかった。
これはどう見てもウェディングドレスだ。
それをなぜ今自分が着なくてはならないのか
その理由は
皆目見当がつかなかった。
「俺、他の箱開けて準備してるから、早く着ちゃって?」
ユーリの有無を言わせぬ物言いに
イリアは仕方なくそのドレスに着替えることにした。
(いつか着るための試着?衣装合わせなのかな…)
「ユーリ、あのさ、これって……」
「ん?なに?」
ついたての向こうでユーリはがさごそ箱から何かを出している。
「…ウェディングドレスだよね??」
「そうだねー」
「えっと…これは、花嫁が着るやつだけど?」
「うん、そうだねー」
(会話がかみ合わない…)
「私、誰かと結婚式するのかな…」
「誰かって、イリアさんは結婚したい人他にいるの?」
(他に??)
「え?誰と結婚するの?」
「やだなぁ。一人しかいないでしょ」
(いやいやそりゃあいつかジルと結婚したいとは思うけど)
ついこの間国王陛下にご挨拶したばかりだし
今は新国王の即位でバタバタしているし
大体、今日はルイ国王とプリンセスの婚姻式だったし……
「ねぇ、もう終わった?」
ユーリが覗いてくるのと同時に
イリアはドレスの肩ひもを掛け終えたところだった。
「わぁー……綺麗」
ユーリは真顔でイリアに見惚れていた。
「……き、綺麗だよねこのドレス」
照れくさそうに話をそらすイリアに
「え、違うよイリアさんが」
さらに真顔でユーリが重ねる。
「なんていうか…プリンセスは可愛くて愛らしいけど、イリアさんは綺麗なんだよね…。
俺はどっちも好きだなー!」
ユーリは屈託のない笑顔でそう言った。