第2章 プリンセス選定
イリアは、他の候補者たちと一緒に控室へ向かっていたつもりが
いつの間にか一人になっていることに気づいた。
(…どうしよ…やばいなぁ。私…方向音痴なんだよね)
招待状に簡単な案内図が同封されていたが、どうも地図というものは慣れない。
天球図は自分で描くくらい得意なのに、地図はどうもダメだ。
案内図をひっくり返してみたり斜めにしたり、ぐるりと体を反転させたりしながら、イリアが自分の位置をなんとか確かめようとしていると…
「失礼ですが、プリンセス候補の方ですか?」
低く澄んだ声が間近に聞こえ、
イリアはびくりと肩を揺らした。
「……あ…」
返事をしようと振り返ると
シドと同じくらいはありそうな長身だが、すらりとした体躯
紫がかった少し長めの髪に
同じ色のフロックコート
明け方の空の境目のような深い紫色の瞳をしている。
返答しようとしたイリアは、その姿に目を奪われ、何も言えずに立ち尽くしてしまった。
長身の男性は返答を促すように上品に微笑む。
「え、あ、そう…ですね……」
我ながらひどい答え方をしてしまい、イリアは頬を赤らめ俯いてしまった。
「私も会場へ向かうところです。よろしければご案内致しましょう」
赤らめたままの顔を上げると、長身の男性は深い紫の瞳を細めて微笑んでいた。
「ありがとうございます」
少し掠れた声でイリアはお礼を告げ、彼の後をついていくことになった。
「しかし随分と見当違いの方向へ来てしまったのですね」
「えっ…そ、そうなんですか…すみません…」
「いえ、ここは広いですから…初めての方には少々進みにくいのでしょう」
「……あの、失礼ですが……」
「……これは申し遅れました」
前を歩く長身の男性は、フロックコートをわずかに翻し、イリアの方を振り向いて答えた。
「私は、国王陛下側近にして、プリンセス選定を一任されております、ジル・クリストフと申します」
「ジル……クリストフ様……」
復唱し、しばし間が空いてのち
イリアは立ち止まり仰け反りそうになる。
「え、えええ!!!」
プリンセスを、選ぶ人?!?!