第14章 誘拐
「うはぁっ……!」
屋敷の玄関口。
護衛の男がその場にうずくまり倒れた。
「く…貴様!」
もう一人の護衛が、剣をかざした。
しかし向けられた剣はあっさりとかわされ
弾かれると床に落ちてしまう。
うろたえた男の喉元に
刃先が向けられる。
「…長剣(ロングソード)を振るうのは数年振りでしたが…貴方よりはマシのようですね」
深紫の双眸が
冷たい眼差しでおびえる護衛の眼をとらえる。
静かに、低い声が響く。
「貴方のご主人さまは、今どちらですか」
「……そ、それは…」
言い淀む護衛に、ジルは刃先を首元に押しつける。
「久しぶりですから、手加減できませんし…急いでいるので手元が狂いそうですが」
「に、2階の客室です!」
ジルはすっと目を細めると
黙って男の後ろにある階段を駆け上がった。
廊下の奥にある
他の扉とは少し豪奢な作りになった扉に
ジルは手を掛けた。
目に飛び込んできたのは
愛しい人が、無残な姿で床に伏せる姿と
その前で見下ろす獣のような男の姿だった。
乱れた服からは白い肌がのぞき
ところどころ殴られたようなアザがある。
振り乱れた髪から覗く口元からは
血の滲んだ跡があった。
男は僅かに乱れたボトムを引き上げ、ベルトを締めたところだった。
全身の血液が
逆流し、沸き立ち
剣を握る手が震えた。
まだ意識の僅かに残ったイリアが
目線だけ上げて答える。
「ジ、ル…」
「貴様……!!」
エドガーはジルの方を振り返る。
反応するスキすら与えず
ジルは沈黙して間合いをつめると
「許しません」
剣を振り上げ
エドガーに斬りかかろうとした。
「だめ……ジル!!」
イリアの
掠れた声が
絞り出されるように響いた。
その声に
ジルの動きが止まる。
「……私は、大丈夫です……あなたは…人を殺めてはいけない……」
丸腰だったエドガーは
その場にへたり込む。
深紫の双眸は
冷静さを取り戻したかのように
冷えた色を取り戻す。
ジルの殺気が消えていく。
「王宮騎士団が貴方を捕縛しに向かっています」