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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第7章 移り香


少なくとも背中を預けてくる程度にはこちらを信用している様だし、こちらとしても同様に彼を信用している。
不確かだが、繋がりはある。
牡蠣殻との関わりも形は違えど根本は似たようなものかも知れない。

不確かだが、繋がりはある。

椅子を引いて腰掛ける。

無意識に指先で卓を叩きながら、松明草がまた香ったように思って顔を上げた。

サソリがうっそりと広間の入り口に蹲るように立ち尽くしていた。

「…何です?」

右の眉を上げて尋ねると、サソリは滑るように近付いて来た。
卓の手前、向かいから、投げ槍で起伏に乏しい傀儡使いのいつもの声がボソリと出る。

「オメェは飛段やデイダラと草に行ったんだったよな」

「……」

…何が言いたい?

コツ、と、一際高く卓を弾いて、目を眇める。

「…それが何か?」

自然顔が険しくなった。
整い過ぎて裏白い素のサソリも得意ではないが、ヒルコを纏ったサソリは更に薄寒い。
それが上目遣いで尋ねて来る。

「饗されたか?」

饗されたか?
口角が上がった。体を斜めに座り直し、足を組む。

「その口振りだと、草の饗しを知っているようですね?」

「草の饗しと言えば訳知りの間じゃ有名だろ」

「一服盛られたかどうか知りたいという事ですかね」

直截的に問い返すと、サソリは面白くもなさそうに笑った。

「草の薬は美味かったか?」

「振る舞われていないものに美味いも不味いもないでしょう」

素っ気ない答えにサソリの笑みが味気無く大きくなる。

「大したあしらいはされなかったって事か。残念だったな」

「上客には特別な振る舞いがあるようですねえ、確かに」

牡蠣殻の様が思い浮かんだ。口中に苦味が広がる。
気が付くと広間から去るサソリの後ろ姿が目に入った。

「サソリ」

声をかけると黒く蟠るような影が気怠げに振り返った。

「草で饗された事があるんですか」

「下らねえ事聞くな。俺は饗されるより饗すクチだ。知ってんだろ」

「なら草の毒を饗した事がある?」

サソリが鼻を鳴らした。

「残念だが今までのとこ、そんな機会がねえ。出来るモンなら饗してみてぇモンだが…」

チラリと楽しげな色がサソリの顔を掠めた。

「…まぁ機会がありゃあな」

「……」

今度こそ広間を後にしたサソリを眉をひそめて見送る。
松明草の香りは完全に消えた。

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