第4章 未熟者
「兎も角、牡蠣殻の置き土産とやらに話を聞いてみるべきでしょうね。土産物にまで逃げ出されては牡蠣殻の足跡が更に取り辛くなりましょう。どんな土産を携えて牡蠣殻が草を出たのか、私も大変興味があります。よろしければ是非にも同席させて頂きたい」
「牡蠣殻の連れはどんなヤツなんだ?」
波平の言葉には敢えて応えず、綱手は自来也に尋ねた。
自来也は唸りながら顎を撫でた。
「どんなヤツって…。まあ、さっき言ったようなヤツじゃよ」
綱手はあからさまに呆れて口角を下げた。
「ラーメンも食った事がないとか何とかいうアレか?あんなんで何かわかると思うか、馬鹿者。今そいつは何処に居る?」
「ナルトと一楽に居る」
「…どうしてもラーメンか。三代目の言う通り、そいつにまで消えられちゃ目も当てられん。誰か使いを」
言いかけた綱手を自来也が手を上げて止めた。
「わしが行く。警戒しとるからな。知らん者が迎えに行って容易に付いて来るとも思えん。わしが行った方が早い。ついては奈良の惣領息子を呼び出しといちゃくれんか。牡蠣殻の話にあいつの名前が出た」
「シカマルか。承知した」
綱手が頷いたのを見届け、自来也は室の扉に手を掛けた。
「ナミヘイも居ったらいい。牡蠣殻はお前に采配を仰ぎたいと言っとった。蚊帳の外にゃ置けまいよ」
言い置いて扉が閉まる。
波平は苦笑いともとれる曖昧な表情でそれを見送り、トンビの袖を捌いた。
「座ってよろしいでしょうか、五代目」
組んだ手の上に顎を載せた綱手が、溜め息混じりに頷いた。目尻に僅かなシワを寄せ瞠目する。
「火影になったとき、私も様々考えた。鑑みれば私情に背を押されてこの立場を引き受けたように思う」
「それはしかし賢明な判断でした。お陰で今木の葉は安泰、他里の者を引き受けるだけの器すら備えている。磯はあなたに頭が上がらない」
眼鏡を拭きながら言う波平へ、綱手は顔をくしゃっと歪めて笑ってみせた。
「結果が出るまで何がいい事か悪い事かわからん。そう思うのは未熟だからかな」
「それは私の好きな女もよく口にしていた言い草ですよ。五代目、私はそうした事を口にする未熟でままならぬ女が好みのようだ」
波平の言葉に綱手は目を瞬かせて豪快に笑った。
「アタシをくどくなんざ十年早い。未熟者の磯影。もちっと男を磨いてからにしな」