第10章 隠れた気持ち
電話をかければいいだけなのに、気づいたらのマンションの下にいた。これじゃあ完全にストーカーじゃないか。
「・・・さすがにマズイか、」
停めた車にエンジンをかけて、引き返そうとしたとき、目の前を通りすぎようとする女性の姿に驚いた。
1年前よりも長くなった髪、たったそれだけなのに、また綺麗になった気がした。
気づかずにマンションへ入っていくその人を引きとめようと慌てて携帯に手を伸ばす。あんなに押せなかった「通話」のボタンが、こんなに簡単に押せるなんて。
耳に当てた携帯からコールがなった瞬間、同じ場所から大きな音で着信音が鳴る。女性がポケットから携帯を取り出し、着信を確認すると、すごく驚いたような顔をした。番号を消していなかった、それがわかった瞬間いけない期待をしてしまう自分がいた。
『・・・翔、くん?』
耳元で聞こえる久しぶりの声に愛しさが込み上げる。
「・・・、うしろ。」
そう言うと、携帯を耳に当てたまま後ろを振り向いた彼女と視線が合う。
『・・・な、んで』
「久しぶり、」
『・・・・、うん。』
「あのさ、少し話したいんだけど、時間大丈夫?」
ほんとに気にしているのは時間じゃない。
「あ、いや、……彼氏、大丈夫?」
『・・・あ、うん、大丈夫です。』
「そ、よかった。」
『あがるよね?』
「え!」
『え!』
の思いもよらない言葉に、慌てた声を出すと、もそれにつられて驚いたようで同じような声を出した。
「あ、いや、ごめん、お邪魔、します。」
平然を装おうと頑張ってはみたものの、それには少し無理があったみたいで。
『・・・ふふ、』とが小さく笑った。
『部屋の番号変わってないけど、場所大丈夫かな。』
「うん、大丈夫です。」
『では、後ほど。』
その電話の切り方すらもらしくて、変わっていない。1年前ののままで、隣に違う人がいるだなんて想像すら出来ないから、それが俺には厄介で。
ケジメをつけるための、諦めるための再会なのに、これじゃあ気持ちが大きくなるばかりだ。