第5章 2回目は食事
午後9時30分。私の携帯に着信が入る。ディスプレイには「櫻井さん」。電話がかかってきたのは初めてだ。なぜなら会うのは2回目だから。(正確に言うと櫻井さんの正体に気付いてから2回目)
通話のボタンをおして、「もしもし、」と言うと、耳の向こうから「もしもしさん?遅れてごめんね」と優しい声が聞こえた。
「いいえ、私も今来ました。」
「…ふふ、そっか、ありがと。」
なぜお礼を言われたのかはわからなかった。
電話の向こうから雑音が聞こえた。櫻井さんも近くにいるんだろうか。そう思って周りを見渡しても櫻井さんらしき人は見えない。て、当たり前じゃない。櫻井さんがこんなところにいるとバレたら、とんでもない大騒ぎだ。
すると、電話の向こうで笑い声が聞こえる。
『違うよ、そっちじゃない、上上。』
携帯を耳に当てたまま、言われた通りに視線を上げると、道路を挟んだビルの上から手を振る男性が見える。
「…あ、見つけました!櫻井さん!」
『うん、迎えに行けなくてごめんね、』
「いいえ!(天下の櫻井翔に迎えてもらうなんて、滅相もありません。)今向かいます。」
『うん、待ってます。』
電話の切れた音を確認して、急いで横断歩道を渡る。なんだろう、初めてに近い人なのに、国民的アイドルなのに、2人っきりで食事をすることに緊張も不安もなかった。
それは櫻井さんが出す、自然な空気感のおかげ。