第5章 2回目は食事
「…うまっ!」
櫻井さんがナイフとフォークを持ったまま、お皿に乗った料理をマジマジ見つめる。その姿に思わず笑いが出た。
「ふふ、」
「え、あ、ごめん、」と櫻井さんが笑って口を押さえる。
「いえ、美味しいですね。…よく来るお店じゃないんですか?」
店内は完全個室で、オレンジっぽい落ち着いた雰囲気のライト、オシャレな音楽がほどよい音量でBGMとしてかかる。
凄く櫻井さんのイメージにぴったりなお店だけど…さっきの反応から見ると、決して慣れたお店、というわけではなさそうだ。
「…あ、バレた?」
「え?」
「俺、女の子の友達とかいないから…好きそうなお店わかんなくて、なんとなく俺の好みで選びました!」
「凄く素敵なお店ですね。料理も美味しいし…、あ、実は私、櫻井さんの好みに似ているもの多いんです。」
「え!何があるの?」
「えっと、いつもスーパーで買ってくれる貝のお刺身セット、ブラックペッパーのチーズ、オリーブのピザに、時々買う漬物三点盛り…それから、」
指を折りながら、自分でもいくつあるか確認してみると、指が足りなくなる。
「あははっ、まじ!?食べ物の趣味も合うの?」
「…ふふ、はい。いつも櫻井さんのレジするたびに、食べたくなって私も買いましたよ、大変なんですからね。」
「えーそれ、俺のせいー?」
「はい、櫻井さんのせいです。」
「じゃあまた飯行けるね、」
「え、あ、」
櫻井さんのスムーズなお誘いに驚いた。
「俺、こんなに気の合う女の子の友達、初めて。」
「ふふっ、私も、です。」
「ね、じゃあさ、映画は?映画!」
「あ、私の一番はですね、」
櫻井さんとの会話は絶えなくて、凄く楽しかった。好みが同じ物もあれば、私がまだ知らないものもあって。
ただ、この日一番嬉しかったのは、私のことを「友達」と言ってくれた、その言葉。