第4章 1冊の本
「なんだ、覚えてるんだ。」
櫻井さんが1ヶ月前に私から明道妙子先生の本を譲ってもらった、と言った。確かに、そんな出来事があったのは鮮明に覚えている、ただ…
「え?…え?…ええ!?あの男性、櫻井さんだったんですか!?」
「はい、そうなんです。」
そう言って、櫻井さんは鞄から1冊の本を目の前に出す。
「もう読んじゃった?」
それは私が譲った明道妙子先生の1カ月前に出た新作。
「………うそ、…まだ、です。」
「良かった、はい。どうぞ。」
「え、」
「良ければお貸しします。俺のせいで読めてないわけだし。」
そんな、俺のせいで、だなんて。あれはただの私の気まぐれだ。罪悪感だなんて感じてもらう必要はないのに。
櫻井さんから本を受け取り、黙ってそれを見つめた。なんだか今日は、櫻井さんに驚かされてばかりだ。