どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
その可能性に私が胸を高鳴らせている最中に聞こえ始める、くつくつという背後からの笑い声に、サキが気付く。
彼女の振り向く先で、ヒソカが片方の手で口元を覆い、肩を揺らして笑っていた。
こちらの視線に気付き、ヒソカは少し顎を上げ目を合わせる。
その目付きはまるで、胸ぐらに掴み掛かり「たまらない」と耳打つようで、瞬間、彼女はゾワリと総毛立てた。
『──マズい』
どうもヒソカの闘争本能を刺激してしまったようだ、と、私達は直感的に思う。
鼓動を早める彼女は、無意識に拳を握った。
「……自重しなさいよ。アンタだって二度も試験に落ちたくないでしょ?」
サキが、ヒソカに対して体を横に向けたまま目だけ離さずそう言った。
するとヒソカが、すっとサキの顎に手を添え、彼の方に向かせる。
顔が近い。
私は思わず息を止める。
「何をすれば、試験に落ちるんだい?」
ヒソカが笑みを湛えたまま首を傾げた。その返答に、サキが眉をひそめる。
その一方で、私はヒソカを直視することさえ出来ずいた。
──あぁもう、そんな状況じゃないのに。当のサキだって、気にしていなさそうなのに。というか、これはさっきの58番の人の逆バージョンなんじゃ?
と、ヒソカが“そういう言動が平気な人”だと分かっているはずなのに、彼の仕草や顔の近さに思わずどぎまぎしてしまう自分を、私は情けなく思った。
サキが、顎に添えられたヒソカの手を無言で取り、下ろさせる。
と、その時、
「サキーー!」
と、よく通る少年の声。そして、駆けるいくつかの足音が響いた。
「ゴン!?」
サキと私の声が重なる。
「おい!お前ら今の話聞いてなかったのか!?」というトンパ声が、遠く聞こえた気がした。
「凄い音がしたけど、大丈夫!?怪我とかしてない!?」
サキの前まで来たゴンが、息を切らしながら尋ねる。
「え、えぇ。心配要らないわ」
ヒソカを意識しながら、サキは応えた。クラピカとレオリオも、すぐ後に駆け寄る。
『この子達をヒソカの餌食にさせるワケにはいかないわね。……最悪、あたしが食い止めなきゃなんないか』