どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
「は?」
58番の男がそう声を出し終える頃には、彼は地面に側頭部を打ち付けていた。サキが頬に添えた手で、そのまま一気に薙ぎ倒したのだ。
ドォン、と倒れた時の音がトンネル内で低く反響している。
彼女は、少し落とした体勢を元に戻すと、舞い上がった埃を払った。
「五体満足でいられること、感謝しなさいよ?アイツにわざとぶつかっといてよろけるような実力じゃ、試験受けたところで途中で死ぬのが目に見えてんだから。……ま、もう聞こえてないだろうけど」
58番の男はどうやら完全に気絶してしまったらしい。
サキは、ふぅ、と息を吐くと、片側の髪を耳に掛けた。
『はー、スッキリした』
『あの、サキ?今のは……?』
私は、堪らずサキに尋ねる。
『今のは?って、平手打ちのこと?大丈夫よ、手加減しといたから』
『あぁ、それは良かった……じゃなくてですね!いやまぁそれも気になってはいましたがそれより……その、さっきの行動だとか、言葉遣いだとか……』
『あぁ、なんだ。ただの演技じゃない。いつもの』
サキは、どうって事は無いと言わんばかりにそう言った。
私は目を白黒させつつも、『そうか、彼女にとっては“いつもの”ことなんだ』と、妙に納得してしまう。
彼女が“私(サチ)”として話をしてくれたのは、この2週間で2回。客観的に、“いつものこと”と表現するには違和感がある。
つまり“いつものこと”というのはきっと、私と会うよりもずっと前からの習慣──だからこそ、“私”を演じることも抵抗無く、自然にやってのけてしまうのだろう、と。
──それに。
と、私は地面に伸びる58番の男を見やった。
彼が“助かった”のかどうかは正直微妙なところだが、“ヒソカの凶行を防ぐ”という意味では、今回の件は成功と言えなくもない。
私はその事実に、急に胸がドキドキしてきたような気がした。
──変えられるかもしれない。“彼ら”の死のシナリオを。