どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
私は思わずヒソカにお茶を吹き掛けそうになる。いや、お茶なんて飲んでいないけれど。というかそもそも体を動かせないけれど。
『いや、あの、彼らとは断じてそういう関係では、というかヒソカともそういう間柄じゃ──』
そんなふうに慌てふためく私をサキは放置し、ハッと一つ、鼻で笑った。
「大事な人?面白いジョークね」
『せいぜい“大事なコマ”ってとこでしょ。ってか、アンタはなに取り乱してんのよ』
『あはは……ですよね、すみません……』
──と、まだ茹でダコの私がサキに謝っていると、ヒソカの方から、どん、という音がしたあと、彼の後ろで一人よろめいたのが見えた。
「女連れたぁ、いいご身分だなぁ。シンセーな試験会場でイチャつきがって!」
58番の番号札を付けた男が、ヒソカの後ろで喚く。
『あぁコイツね、ヒソカに腕切られるヤツ。ってか誰と誰がイチャついてるって?はー、助けたくないわぁ』
なんて思いながらも、サキは58番の男とヒソカの間に、するりと移動する。そして一度目を伏せてから、スイッチを入れるように顔を上げた。
「ごめんなさいね。貴方が怒るのも当然だわ。試験前で皆さん集中していらっしゃるのに……。私ったらつい、皆さんのようなお強い方々とご一緒できるのが嬉しくて、はしゃいでしまって」
サキは言いながら58番の男の手を、指を絡ませるように両の手で取る。
一方で私は、サキの変化に戸惑いを隠せず狼狽えた。
行動も、喋り方も、雰囲気も、まるで別人だ。
「ここは、私に免じて許してくださらないかしら?色男さん」
薄く微笑んだサキはゆっくりと片方の手を伸ばし、58番の男の口元に触れる。そして彼女は指先で、男の顎から頬にかけて、そっとなぞった。
ひゃあぁ!と、私は心の中で悲鳴を上げる。
──は、恥ずかしいっっ!!!
そんな私の心境も知らず、58番の男はデレッと締まりのない表情を浮かべていた。
「おいおいピエロさんよぉ!このマブいネーチャンは、どうやらアンタよりこの色男の方がイイらしいぜ?」
両手で顔を覆ってしまいたい衝動が叶わず悶える私をよそに、サキは58番の男に顔を近付け、耳打ちする。
「勘違いなさらないで?免じてもらうのは、貴方」