どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
「やあ、君達新顔だね」
その声に顔を上げると、太いパイプの上に腰掛ける、小太りの中年男性がいた。彼は、「よいしょ」とパイプから飛び降りる。
タン、という着地音が軽快で、見た目よりずっと身軽そうに思えた。
「おじさん、わかるの?」
ゴンが不思議そうに尋ねる。
「あぁ。なにしろ、10歳からもう35回もテストを受けてるからね」
「35回!?すごい!」
「はは、威張れることじゃないよ。万年受験生ってだけさ。まぁでも、わからないことは何でも教えてあげられるよ。俺はトンパ。よろしく」
トンパは手を差し出し、ゴン達と握手をした。
「よろしく」
親しみのある笑顔を向け、トンパはサキにも握手を求める。
彼女はそれを一瞥し、ふい、と顔を逸らした。
あはは、とトンパはやり場の無い手を戻し、頭を掻く。
「こんな小汚ないおじさんと握手するなんて、やっぱり嫌だったかな」
その言葉に、私は申し訳ない気持ちになった。
缶ジュースさえ受け取らなければいいのだから、もう少し愛想良くしてあげてもいいような──
『アンタそれ、本気で言ってんの?』
サキの声が、胸に低く響く。
『トンパよ、トンパ。新人潰しの!そう言ったのはアンタでしょうが!“缶ジュースさえ”なんてのはアンタが先のコト知ってるから言えるだけで、相手の性質(タチ)の悪さは変わんないの。こんなヤツに構う必要なんてゼロよゼロ!』
サキは私にそう言うと、トンパに背を向け歩き始める。
「サキ!どこ行くの?」
そう、ゴンが声を上げた。サキは振り返りもせず片手を頭の高さ程度に上げ、ヒラヒラと振る。
「トイレよ、トイレ。レディに野暮な質問しないで」
四人の視線を感じつつ、サキは進む。
そんな彼女に、私は無意識に声を落とし、言った。
『あの、サキ。凄く言いにくいのですが……この辺りにトイレは無さそうです』
『なんでアンタが真に受けてんのよ!』