どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
私の代わりに、サキが深くお辞儀をする。
細い目を丸くしていた旦那さんだったが、直ぐににこりと微笑んだ。
「こちらこそ。短い間だったが楽しかったよ、サチ」
目の前に、右手が差し出される。その手を取ると、きつく握り返された。まるで、旦那さんからエネルギーを貰っているような気になって、私は胸が一杯になった。
「それじゃ、今度こそさよならだ。君らの健闘を祈る」
旦那さんはそう言って部屋を出ると、軽く手を上げる。そして扉を、静かに閉じた。
──また、会えるだろうか。
私は確かな高揚と少しの寂しさを胸に、閉じた扉に旦那さんの残像を見送る。
「君は」
クラピカが何かを言い掛けたところで、ウヴン、と部屋の奥からモーター音がした。そして、ささやかな浮遊感を覚える。
部屋が、エレベーターとして動き始めたのだ。
脇にある、それらしい扉の上の電光表示版が、1からB1へ、B1からB2へと、より下層への移動を伝える。
それらを認めてから、サキはクラピカに振り返った。
私達は注文したステーキの、香ばしい焼け焦げたような匂いの中──
『……焼け焦げ?』
私とサキの思考が重なる。
クラピカの向こう側が、薄っすらと煙っている。よく聞けばプスプスと音を立てている、肉の塊。
「あーーっ!」
思わず、サキと共に盛大に叫んだ。
ビクッ、と目の前の三人の肩が揺れる。
『あっ、ごめんなさ』
「ちょっ、折角の肉が炭になりかけてんじゃない!!」
サキがサキとして、彼ら三人を掻き分け通り過ぎる。そして彼女はテーブルの端にあった皿を、トランプの束を一息で開くように手元に並べると、銀色のトングを両手に、鉄板の肉を鮮やかに浚っていった。
カチャリ
サキが最後の肉を皿に移し、トングをテーブルに置く。
そして彼女は、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「おおー」
三人の方から、思わず漏れたような歓声と共に、まばらな拍手まで聞こえてくる。
彼女からは、『えっ、こんなことで?』という声と、少しの照れを感じた。