どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第7章 一次試験、開始
「……どう見てもただの定食屋だぜ」
前衛的かつ厳かに聳える高層ビル──の隣に建つこぢんまりとした店舗を見て、レオリオが洩らした。
ゴンもクラピカも、信じられないと言わんばかりに、目を丸くしている。
当たり前だ。
ナビゲーターである旦那さんが、目的地はここだと言うのだから。
「冗談キツイぜ案内者(ナビ)さんよ。まさかこの中に無数のハンター志望者が集まってるってのか?」
レオリオがいよいよ抗議しはじめるも、旦那さんはまるで意に介さず、ニッと笑った。
「そのまさかさ。ここなら誰も、応募者が数百万人とも言われるハンター試験の会場とは思わないだろ?」
立ち止まる私達の背を、「さぁ、入った入った」と旦那さんが押す。
入口の引き戸にゴンが手をかけると、戸はガラガラと音を立てた。
「いらっしぇーい!!」
中華鍋で炒めものをする店主の、活きの良い声が飛んでくる。店内では多くの一般客らしき人々が食事をしていた。
何も知らなければ、ごくごく普通の、程々に繁盛している定食屋に見えるだろう。
ゴンもクラピカもレオリオも、ツッコむ気すら起こらないようで、ただただ店内を見回していた。
「ご注文はー?」
江戸っ子ばりに気の早い店主が、早速注文を取る。当然ながら、私達は席に着いてさえいない。
「ステーキ定食」
旦那さんが、メニューも見ずに注文する。そのやり取りが、私はちょっぴり可笑しかった。
視線を上げる店主の耳が、ピクリと動く。
「焼き方は?」
「弱火で、じっくり」
「あいよー」
店主がそう言いそっぽを向くと、二人のやり取りを見守っていた若い店員がこちらへ近付いた。
「お客さん、奥の部屋へどうぞー!」
愛想良さげな店員が、私達を席へと案内する。
扉付きで、隔離された印象のその席は、確かに“個室”というより“部屋”だった。
席では既にいくつもの肉の塊が、鉄板の上でジュージューと焼き上げられている。
あれよあれよという間に通された取って付けたような一室に、ゴン達三人は発する言葉が見つからないようだった。
旦那さんが私達の顔を、一人ひとり意味有りげに見つめる。
「一万人に一人」