どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第2章 彼らの世界へ
「な、な、な」
うまく言葉が出てこない。どこから突っ込んでいいのか分からない。フルネームとか、キスとか、キスとか!!
「純情だねェ」
ヒソカさんはすこぶる楽しそうだ。
か、か、からかわれた……!!
「ヒソカさんがキザ過ぎるんですっ!!」
「そうかい?ああ、呼び捨てで構わないよ」
小声で訴えるも、ヒソカさんは意に介さない様子。はぁ、もう早く帰りたい。でも正直、ヒソカさんの事も気になって仕方ないのだ。だって、だって、あのHUNTER×HUNTERのヒソカと丸々同じ名前なんてっ!!
「ご案内させて頂きます」
ややパニックを起こしかけたけれど、ウェイターの一言ではっと現実に返った。
そうして彼に導かれるまま、私達は赤い絨毯の上を歩きテーブルへと向かう。白壁にシャンデリアが眩しくも柔らかい光を放っている。他の客は皆キチンとした身なりで、特に女性などは華やかなドレスやワンピースに、宝石を散りばめたアクセサリーを付けている。
「あの、何だか私、場違いな気が」
ヒソカさんにコソコソと耳打ちする。周りを見渡す程に、普段着の自分が気になって仕方ない。
「そうかい?君ほどこの場に相応しい人はいないよ」
またこの人は……!
「聞いた私が間違いでした」
カチンときた私は、つっけんどんに返す。ヒソカさんは私をからかうのが楽しいだけなのだ。
ウェイターが引いてくれた椅子に、お礼を言って座る。うん、入店拒否されなかったのだ、もうどうとでもなれ。
そう開き直ると、少し別の感情も芽生え始めてきた。言葉や真意はどうあれ、ヒソカさんはフォローしてくれたじゃないかと。
……なんとなく、罪悪感。
「こちらが、本日のシェフおすすめコース料理となっております」
ウェイターがメニューの書かれた小冊子を手渡してくれる。素人目にも、いい紙だ。でも、それ以上に私はメニューの文字に釘付けになってしまった。
「食前のお飲み物は、シャンパンでよろしいでしょうか?」
そう問われた事に気付いた私は、ウェイターを見つめ、ヒソカさんを見つめ、またウェイターを見つめて、こくりと頷いた。言葉が出ない。
また、じっと文字を見つめる。オードブル、シェーブルチーズとビーツのクロスティーニ。スープ、ヴィシソワーズ コーンの香りを添えて……うん、読める。何の苦もなく。いや、だからこそ今まで気付かなかったんだ。
