どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第6章 新たな出会い
「おーい、準備はできたかい?この調子だと、三人組の到着まであと2、30分てとこだよ!」
「こっちは準備万端だぞー!」
「今回の傷は自信作だよ」
奥さんが姿を現すと、部屋の中央にいた旦那さんと息子さんが返事をする。
「すみません、急ぎます!」
私も慌ててそう返すと、三人が突然、真顔でこちらに振り向いた。思わず、体がビクッと跳ねる。
「あぁ、あのね、サキさんは実は二重人格?らしくて、今はサキさんじゃなくサチさんなの」
状況を察したらしい娘さんが、三人にそう説明した。
「正確には、合意の上で取り憑かせてもらっているという感じではあるのですが……」
もごもごと補足する私の声が届いたのか届かなかったのか、奥さんはこちらまで来てポンポンと私の両肩を叩き、
「よくは分からないけど、若いのに苦労してるんだねェ。おばちゃん、応援してるよ」
と言って頭を優しく撫でた。
──誰かに頭を撫でられるなんて、いつ以来だろう。
私はどこかくすぐったくて、にやけそうになる口をきゅっと結んだ。
「さあ、そろそろだよ。足音が近付いてきてる」
月の光だけが差し込む暗闇の中、旦那さんは娘さんを抱えながら、小声で私達にそう教えた。
耳を澄ますと、足音が3つ、ジャリジャリと小石を踏み締めながらこちらに向かっているのが聞こえる。
私は“魔獣の襲撃に倒れる、先に到着していた受験者”役として、息子さんの倒れている場所より奥で体を横たえ、血糊が丁度良く垂れるよう口を少しばかり開き、目を瞑った。
「や~〜〜っと着いたぜ」
「静かだな。我々以外に受験者は来ていないのか?」
外から聞こえる、聞き馴染みのある声色。
他でもない、レオリオとクラピカだ。
コト、コト、コト。
と、と、と。
トン、トン、トン。
ゴン達が、三者三様に玄関先の階段を登る。
あの扉の向こう側に、ずっと、見ているだけだった彼らが居る。
ワクワクし過ぎて、胸が張り裂けそうだった。
人はこんなにも楽しみで仕方ない気分になれるのだと、私は久方ぶりに思い出した。