どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第5章 素性
『……すごいなぁ』
私は思わず感嘆の言葉を漏らした。念ってつくづく奥が深い。あと、そんな人を雇えるだけ稼いでるサキもすごい。私より3つも年下なのに。
『別に、あたしは凄くないわよ?手段を選んでないってだけでね。にしても……へぇ、アンタ年上だったんだ』
『意外ですか?』
『いや、別に』
『まさか“別に”で挟まれる日が来るなんて……』
『アンタさっきからホント大丈夫?』
私は心の中で、へへへと笑う。
ふと視線を落とすと、開かれたままのSMSが焦点の合わないままぼんやりと目に入る。さっきざっと流し読みしただけだけど、そこには確かに“幻影旅団”の文字があった。まさかとは思ったけど、やっぱり彼らが絡んでいたんだ。
『あの、サキは彼らに会いに行かなくて良いんですか?ひょっとしたら、まだこの近くに留まっているかも』
『なによ急に。アンタが会いたいだけじゃないの?』
『え!?いや、まぁ、その、否定はできないですが……っでもそれ以上に、純粋にそう思っただけですっ。幼なじみ、なんですよね?』
『……まぁね。でも、会わないわ。合わす顔なんて、無いから』
そんなことを言って、彼女はカチカチと携帯画面をスクロールさせる。何気ない行動だったのだろうと思う。けれどサキの目も手も、ある一文を前にピタリと止まった。
“ヘンリー・バラコーマ氏、次期大統領選 出馬表明”
誰だろう?と思ったのも束の間、心が、怒りのような、可笑しさのような、取り留めのない激しい感情で支配される。そして、同時に理解した。
「はは、上等じゃない」
サキの口から乾いた笑いが零れる。
……この人こそ、サキの憎む相手だ。
『聞く?母とあたしを捨てた男の話』
ぱっ、と脳裏に映るどこかのパーティー会場らしき場面。彼女はある人──爽やかな笑顔が印象的な、余裕があり落ち着いた雰囲気の熟年男性──の挙動を、遠目に観察しているようだった。
「……サキ?」
流石に様子が変だと思ったのだろう、ヒソカが彼女に声を掛けた。けれど、彼女は顔を上げない。
ただ、携帯を眺めて、いる?
……おかしい。
今の今まで暴風のように心を掻き乱していた感情も、映像も、プツンと唐突に途絶えてしまった。嫌な予感がする。
『サキ、返事をしてください!』