どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第2章 彼らの世界へ
これは、やってしまった……。
この状況のほとんどは理解できないけれど、それだけは分かる。口から魂が抜けそうな気分だ。いや、ホントは抜けてなきゃおかしいんだけども。
「残念ながら、僕はホストじゃない。キャバクラへスカウトもしないし、高額な商品を勧めもしないよ」
男性の言葉に、かっと顔が赤らむのが分かる。言い訳のしようもない。
「ごめんなさい。あんまり格好良い人だったので、てっきり……」
蚊の鳴くような声しか出せない自分が、酷く情けない。というかこの人には情けない所しか見せてない!もう少し自分は冷静に立ち回れるものだと思っていたのだけれど。なんて、誰に弁解しているのだろう。
「くっくっ、正直だねぇ。君、イイよ。凄くイイ」
いつの間にか私の左手から離されていた手で、彼は前髪を搔き上げる。ふと、誰かに似ているような気がした。
「怖がらせて悪かった。お詫びにディナーをご馳走させてほしい。もちろんホストクラブじゃなく、きちんとしたレストランでね。是非とも、ご一緒願いたいな」
……うん、行きたくない。でも、失礼な事をした相手に是非ともなんて言われてしまえば、無下に断るのも忍びない。少し変わった人だけど、悪い人では無さそう?な気もする。薄っすらと覚えた親近感のせいだろうか。ええい!
「私で、よければ」
そう返事をした途端、今度は右肩を抱かれ「じゃあ、行こう」と左側から囁かれた。心臓が跳ねる。
「あ、あの……!?」
「この人通りだ、はぐれないようにしなくちゃ、ね」
彼が綺麗に微笑む。参った。良心の呵責なんて考えずに断っとくべきだったか。頭が痛い。
こめかみに手をやり目を瞑ると、ふわりと子供達の歌声が耳に届いた。とても聞き覚えのある曲だ。
「……あれ、この曲」
「どうしたの?」
空いている片手で携帯を切りつつ、彼が尋ねる。あ、電話されてたんですね!
「いえ、なんて言うか、この時期に聖歌が歌われるなんて、少し意外だったので」
私がそう言うと、彼は凄く不思議そうな顔をした。
「今日は12月24日、クリスマスイブだろう?ピッタリだと思うけど」
「え!?」
クリスマスイブ!?
その割に寒くないから、全然気付かなかった!私が事故に遭ったのが平成28年10月21日だから、あれから何十日も経ったって事?
……いや、年単位って可能性も、ある。
