どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第5章 素性
さっきの映像……キリコさんの事だろう。
『あれは、ハンター試験のナビゲーターをしている方です。試験会場からそう遠くない港から見える、一本杉の下で暮らしている魔獣さん。お会いしたことはありませんが……』
『なのに、知ってるんだ』
どきりとする。
“こんな筒抜けの状態で──”。
今しがた聞いたサキの言葉が、脳内に響く。
確かに、隠し通せはしないだろう。これからも、様々な場面を思い返すことになるはずだから。
私は、意を決する。
『はい。私は、彼らの事も、今回の試験内容も、誰が合格するのかも、多分、知っています』
『は?合格?多分?それって出来レースって意味?』
サキは怪訝な目で私を見つめた。それを、私は正面から見つめ返す。
『……いいえ。私は恐らく、少し先の未来を知っているんです。信じ難いとは思いますが……私は今まで、私達の居るこの世界について、大好きな漫画として何度も読み返してきました』
私は、言葉を選びながら伝える。
『“多分”や“恐らく”と言うのは、現時点でまだ原作が始まってないことに加え、私という不確定要素が紛れ込んでしまっているからで……』
心臓がばくばくと鳴っているように思うのは、伝えたぞという達成感からだろうか。なんて、それが思い違いであることに、私は次の瞬間気付く。
『……は?つまり、ここは漫画の中の世界だってこと?じゃあなに?あたしの、今までの痛みも、苦しみも、全部机上のモノでしかないって言いたいワケ?』
サキの言葉に、私はハッとした。
この大きな拍動も、徐々に強くなる胸の痛みも、他でもない彼女のものだ。