どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第4章 異心同体
ポーン
私達の心境に似つかわしくない明るい音が、目的地への到着を告げる。
「うわあぁぁ!」
同時に、一人の男性が扉をこじ開けるようにエレベーターに逃げ込んできた。その姿に、私はぎょっとする。
血だ。
血が、髪の毛を濡らしながら、だくだくと顎まで伝っている。
赤黒い片腕はだらんと伸び、皮膚はぱっくり割れている。
赤い。赤い。足跡さえ赤い。
大怪我だ!!
『だ、大丈夫ですか!?』
聞こえるはずもないのに、思わず声を掛ける。
「ひっ、た、たすけ」
私達に気付いたらしい。彼が片腕を伸ばしたその時、サクッとトランプがその腕に刺さった。脳裏にヒソカの顔が過る。
「ぐああ!」
満身創痍の男性は声を上げうずくまった。
『し、止血!』
思わずしゃがもうとするが、身体が動かない。
そうだ、だって私の身体じゃないもの。彼女が動いてくれないと──
『どうしたんですか!?この人、早く止血しないと出血多量で死んじゃいます!!』
『……かもね』
『かもね、って……!』
『分かってたことでしょ?周りのオーラが消えかかってることも、アイツが憂さ晴らししてるんだろうってことも……快楽殺人鬼だってことも』
ドクンと、心臓が鳴る思いがした。その時。
「出ておいでよ」
思考にトランプを刺して来るような、ヒソカの声。
「大丈夫、殺しはしないよ。勿体ないから」
『勿体ない?』
彼女の意識がピンと張り詰めるのが分かる。
彼女がすっと視線を落とすと、扉のレール部分へ交差するように突き刺さったジョーカーのカードが、こちらをじっと覗き込んでいた。
『金属にもサックリなんて、マジ笑えない。しかも、感付かれてる状態じゃ、当然“絶”も効果薄か』
「……寝言は寝てから言ってくんない?」
彼女がそう返すと、くつくつと笑う彼の声がした。
「じゃあ、このままで構わない。君は」
彼の眼光を感じる。
「どうして“絶”ができるのかな?」
背筋に悪寒が走る。
その瞬間彼女は、恐らく無意識に纏で身を守った。
「は?何言って」
『待って下さい』
つい、彼女を制止してしまった。でも、私は、言わなければならない。何か、何かは分からないけど、けど。
『お願いです。彼と、会話をさせてもらえませんか?』