どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第4章 異心同体
彼女の思考が止まる。私の言葉を待ってくれている。
『あなたも、念を知ってるんですね。でも、知っているだけに聞こえました。当たってますか?でしたら、断言します。彼に勝てる可能性……いえ、彼から逃げられる可能性は、ゼロです。彼が強硬手段に出れば、怪我じゃ済まないかも知れません。だから──』
『……アンタが何を言おうが、あたしは、あたししか信じない』
どうして。
そう思うと同時に、何やら断片的な映像が脳裏に浮かび、消えた。ごみや瓦礫?女性の姿?穏やかな表情の少々恰幅の良い初老の男性?それらが印象的だったが、ごちゃごちゃしていてよく分からなかった。
そしてその時、私は彼女の小さな声に気付いた。
『怖い』
囁くような声だ。押し殺しているような。
けれど一度意識が向くと、それがずっと聞こえていたのだろうと分かる。不遜な態度からは想像し難かったが、彼女は知っていたのだ。彼と自分との、力の差を。
私は、それ以上何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
「やめておいた方がいい」
ヒソカの声。
「じゃないと僕は、君の足を折らなければならなくなる」
彼は、不敵な笑みを浮かべていた。
『ハッタリ、じゃ無さそうね』
彼の目に迷いは見られない。
私の……いや、彼女の心拍数が上がってゆくのが伝わってきた。
鳥たちが、キュッキュッと鳴いている。
時折バサバサと羽音をさせながら。
その時彼女が、ふう、と一つため息を一つ吐き、くるりと扉に背を向けた。
「そうね。アンタには、かないそうにないわ」
彼女は徐にジャケットを脱ぎ始めた。そして、そっとベルトに触れる。
『OK、外されてない』
「分かってくれたかい?なら──」
ヒソカが話している内に、彼女は彼に向かいジャケットを投げた。
ジャケットがヒソカの視界を覆うと同時に、彼女は片足を開いてしゃがみ込み、彼の足に掛かるように半円を描く。
──速い。
視界の外からの攻撃を、ヒソカは軽いステップで避ける。彼女はそれを見て取る前に一息で体勢を立て直し、ベルトに手をかけた。視線の先は、ジャケットの先のヒソカ。
まだ、上着が落ちない。
時間が酷く引き伸ばされていると感じる中、ヒソカがジャケットを真っ二つに割き、彼女はベルトの金具をナイフのように投げた。
丸いはずの金具が、朝の日差しに鋭く光る。
違う、あれはナイフだ!
