どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
『……しかも、だとしたらその情報収集は失敗ってことになる。だって母は程なくして死んでしまったし、あたしは、あの街を逃げ出したんだもの。そう、一人で』
ただでさえ煩いサキの胸に、戦慄が走った。
『あたしは一心不乱に、その組織の台帳の記録を辿ったわ。悪い予感は、よく当たるのよ。……あたしはそうして、あたしが逃げ出したその年以降も、同様のことが数年に渡ってあったと知った。記録の中には、よく呼んだ名前もあったわ。名前の隣の“死亡”の文字が憎くて、破り捨ててしまいたかった。けどその時、選ばれた皆の、他の共通点にも気付いてしまった。それは、“若い女性”だったってこと』
不意に、サキは腹部を擦るように触れる手の感触を思い出した。生ぬるい唇の感触も。
『それがどんな意味を持つのか、あたしには、反吐の出るような想像しか出来なかったわ』
サキは思わず座り込み、込み上げる吐き気に口元を押さえた。
『……殺すだけじゃ生ぬるい、と、そう思った。だって死ぬのなんて、ほんの一瞬の出来事だもの。相応の苦しみを味わう期間があるべきだと感じたわ。あたしが得たこのチュンイェンという名前は、アイツに殺された彼女達と共に復讐するために、与えられる運命にあったような気さえした』
サキが、静かに自分を抱き締める。
そのうち、ガチャリ、と遠くでドアノブの回る音がした。
『誰かいるのか』と言う男の声がして、迷いのある足音が聞こえてきた。サキは視線をそちらに腕をほどくと、指先で腿のナイフに触れる。
『あたしは当然、その組織を潰したわ。そしてそれからは、いかにアイツに生き地獄を見せるか……そればかり考えて生きてきた。そう、煌びやかな舞台から一気に引きずり落とし、希望を与えては潰し、与えては潰し、絶望の淵に追いやり、自ら死を選ばせてからわざと生かし、じわじわと絶命させる──アイツを殺すまでには、最低でもそのくらいの過程が必要だと思ったわ。そしてそれまで泥水をすすってでも生きてやると、あたしは自分自身に誓った』