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どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】

第8章 君の理由


『今まで忘れていたその名を思い出した瞬間、息が止まるかと思ったわ。あたしは直ぐ様その組織についても、徹底的に調べ上げた。そしてあたしは二人の件に、父(アイツ)が絡んでいた事も知った。だろうとは思ってたけど、実際に証拠を掴むと、怒りで目が眩むようだったわ。そして同時に、なぜ父が身重の母を流星街に送ったのかにも合点がいった』

その暴力団の事務所だろう、サキは強い目眩に襲われる。

『他殺体の妊婦より、行方不明の娼婦の方が都合がいい。戸籍なく生まれた子の出自など誰が気にするだろう。その後の処理は、“専門家”に任せばいい……と、そんな思考の流れが息をするほど簡単に浮かんだわ』

咄嗟に机に手を付くサキは、眉をしかめ口元を歪ませる。

『あたしはその時になって初めて、あたしの中の10歳の自分がまだ、父が母の死を悼んでくれるかも知れないと、微かに期待していたことを知った。そして、そんな感情を持っていた自分を酷く憐れに感じたわ。はじめから期待なんてしなければ、この程度のことで打ちのめされることも無かった』

サキはそう言って、今再び息を吐いた。
凄く、凄く辛そうだ。
でも私には、そんな彼女を見守るしか出来ない。
過去は、変えることが出来ない。
そして彼女は今、辛くても語りたいと思っている。

『……“この程度のこと”だったわ。その後考察した事柄に比べれば、流星街に居たとき既に想定できた話だったもの』

瞼の裏にヘンリーの姿を浮かべながら奥歯を軋ませたその日を、サキが思い返す。

『あたしは父に対する憤りをどうにか抑え、なぜあの日、母とあたしじゃなく、二人が選ばれたのかを考えた。まず、あたしに関しては恐らく、雇える年齢に達していなかったんだと思う。母はと言えば、一人隠れるように暮らしていたから、街の人間にも殆んど関知されていなかったに違いなかった。手紙のやり取りを絶ってしまったせいで、アイツにとっては生死も定かじゃなかったと思うわ。廃棄物運搬業者の人間も、その数年の内に結構入れ替わっていたようだったし。一方で、チュンイェンもイルダも、とても顔が広かったわ。“家族”じゃないあたしにも、気を配ってくれるくらいに。つまり恐らく』

サキの呼吸が、浅く、早くなってゆくのを感じる。

『二人が選ばれ殺されたのは、単なる情報収集と口封じ』
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