どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
言葉を失う私を他所に、サキはあまりにも普通に話を続けた。
『おじさんの家に住まわせてもらうことになったあたしは、同時におじさんの仕事を手伝い始めたの。子役のスタントダブルとして。おじさんって、実はスタント事務所のオーナーでさ。まぁ、小さな会社だったんだけど……子役のスタントダブルは業界でも珍しいもんだから、自分で言うのもなんだけど、引っ張りだこだったわ』
懐かしがるサキが、目を細める。
私は、さっきの言葉の真意を掴みかねて、サキの横顔をただじっと見つめた。
『初めはそれこそ、寝てたって出来るようなスタントばかりだったわ。けど、段々と演出側の要望が派手で際どくなっていった。一年もすれば、あたしの身体能力に頼りきりの、無茶な演出ばかりになったわ。流石のあたしでも、ヒヤッとすることがあったもの。それも、一度や二度じゃなくね。……そしてあたしはある撮影の山場手前で初めて、入院が必要なくらいの怪我をした』
サキは当時を思い返し、フッと笑う。
『火薬を使ったスタントだったんだけど、量も配置も超・雑でさぁ、危うく黒焦げになりかけたわ。勿論、最悪は避けたけど、うっかり足の骨を折っちゃったのよね。……それからよ。おじさんの事務所が傾き始めたのは』
軽い口調で語るサキの声が話を進めるごとに落ちてゆくのを、私は感じた。
『あたしが怪我したその映画さ、代役立てて進めたみたいなんだけど、結局上手く行かなかったみたい。当然よね、今まで安全性度外視に“あたしがやれる”ギリギリのところで進めてたんだもの』
サキが口端を上げているのは、そんな作りしか出来なかった制作側に対する嘲笑かそれとも、杜撰な環境にも関わらずスタントを続けた自分自身への蔑みか。
『アクションに重きをおいてた映画だったから、却って後半の動きが悪目立ちしたみたい。評判も散々だったもの。全く責任を感じなかったと言えば嘘になるわ。けど、何故かそれをあたし達が仕組んだことにされて、ろくな報酬ももらえなかったことには、流石に腹が立った。しかも、業界中に悪評を広げてくれちゃってさ。以来、まともに仕事が来なくなった』