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どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】

第8章 君の理由





『──ねぇ春燕(チュンイェン)、本当に行っちゃうの?すぐ帰ってくるよね?』

朱く日の沈む瓦礫の街で、幼いサキの声がした。
サキは黒いチャイナ服を身に纏う、17、8歳ほどの少女を見上げる。
サキがチュンイェンと呼んだ少女は、サキと目線を合わせるために腰を屈ませ、両の手でサキの頬を覆った。

『あら。サキったら、私にほんの少しの間会えないのが寂しくって仕方がないのね。本当に可愛いんだから』

『もぅ!はぐらかさないでよ!』

ぷくっと頬を膨らませるサキを、チュンイェンが微笑ましげに見つめる。
私は、少女の言葉遣いやしぐさに、何か覚えがあるような気がした。

『心配無用よ、サキ。だって、あたしが付いているんですもの』

ふとサキが声の方に振り向くと、年の頃はチュンイェンと同じだろうか、パンツ姿の凛とした少女が佇んでいた。

『イルダ……!』

サキが少女の名前を呼ぶ。
イルダ。私はその名前に、確かに聞き覚えがあった。
たしか、ヒソカに倒された人達を病院に連れて行ったときに、サキが看護師に名乗った名だ。

『そう、だよね!イルダが居るなら鬼に金棒……あっ』

『嫌だわサキ。鬼だなんて、一体誰のことなのかしら』

『もぉー、やへへほぉ(やめてよぉ)!』

チュンイェンが、サキの両頬をつまむ。
サキは手足をバタつかせたが、チュンイェンには全く意味の無い行為のようだった。その様子を、イルダが見守る。
イルダが珍しく微笑んだことにサキがつい見とれると、不意に頬にあった手が離れ、ぎゅっと包み込まれる感覚があった。

『それじゃあ、行ってくるわね』

抱きしめられ背中をポンポンと叩かれる。離れるチュンイェンは、サキを見つめ柔らかく微笑んでいた。
思わず息を止めると、チュンイェンのすぐ横から伸びるイルダの手がサキの髪を撫でる。

『サキ、皆を頼みますよ』 

と、イルダはふわりと目を細めた。

そうして皆と別れの挨拶を済ませた二人は、薄汚れたトラックの荷台へと消えた。
ブロロ、と音を立て遠ざかってゆくトラックに、サキはただただ大きく手を振る──。


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