どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
サキの言う通り、女性は美しく端正な顔立ちであった。
けれど十分な栄養を採れていないのか、少しばかり頬がこけており、目の下には薄っすらと隈があった。
『父は当時から自分の“お家”と“清廉性”をアピールしていたから……母にあたしの存在を告げられて、あたし達のことをさぞや邪魔に思ったでしょうね。だから、父は耳触りのいい言葉を並べ、“必ず迎えに行く”と手を握り、身重の母を流星街に捨てた。……なんでそんなこと知ってるのかって、思うでしょ』
私は、“あれ?”という言葉にならない違和感しか覚えていなかったことを言い当てられ、思わずどきりとする。
サキはそんな私をちらりとだけ見て、自嘲するようにフッと笑った。
『母が、毎日のように語ってたのよ。父と、どんなに運命的な出逢いをして、どんなに悲劇的な別れをしたか。父が、いかに素晴らしい地位と資産を持っていて、いかに自分を愛していたか。……まるで、少女漫画の主人公にでもなった気でね』
サキが思い出す彼女の母は、虚ろな目でどこか遠くをうっとりと見つめる。
『母は、流星街に来てからも、父と頻繁に手紙のやり取りをしていたらしいわ。街の外から定期的にやってくる、廃棄物処理業者の男に頼んでね。あたしの事も、書いていたと思う。本名を名乗りたくない理由のひとつがそれね』
サキは、月明かりの中で手紙をしたためる女性の姿を思い返した。
月を眺める女性の髪を、そよと吹く夜風がさらりと拐う。
『けどその内、ぱったりと返事が来なくなったみたい。まぁ、そうよね。アイツにとっちゃ、ただのはた迷惑な女でしかないんだもの。……その頃からのはずよ。母が住処から出ようとしなくなったのは。だからあたしは、確か4歳くらいからだったはずだけど……毎日二人分の食料を集めなきゃならなくなった。結構、大変だったのよ?ゴミ山から売れそうなものを探すのは』
左右で種類も大きさも違うサンダルを履いた小さな足が、瓦礫の山を登る。骨の浮く小さな手が、所々穴の空いたビニール袋に空き缶を入れた。
不意に、瓦礫の中ぽってりと体を横たえる汚れたクマのぬいぐるみ──片目は無く、あちこちから綿が飛び出し、腕の取れかかった──と、視線が合った気がした。
『本当にあたしと母の二人きりだったら、とっくの昔に死んでたわね。……でも、あたしには皆が居た』
