どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
『あたしも、アンタに倣ってみようかしら』
そう呟くサキは息を吸い込み、先の方に目をやった。けれど、特定の何かを見ているというわけでは無さそうで、ゆらゆらとサキの瞳が揺れるのを感じた。
『ちょっと長くなるけど、聞いてくれる?』
『……勿論です!』
どくどく、と鼓動が聞こえる。
サキの胸に覚悟のようなものを感じて、私は居住まいを正した。
『以前、あたしの人生の目標が、ある男に“死以上の苦しみを与えること”だって言ったのは、覚えてるわよね?』
『……はい』
『察しが付いてるとは思うけど、“ある男”ってのは、あたしの父親のことよ』
そう言ってサキは、あの日の続きを思い浮かべた。パーティー会場で談笑する男性は、朗らかな笑みを浮かべている。シャンパンのよく似合う人だな、と、私は男性の持つグラス見て、何の気なしに思った。
『“誠実かつハッキリとした物言いが清々しい、政治家三世。爽やかでクリーンな印象に好感を持つが、少しばかり潔癖すぎるのが玉にキズ”──それがアイツ、ヘンリー・バラコーマに対する、世間一般の評価』
まるでカメラを寄せるように、笑顔の男性に焦点が絞られる。
男性はサキと同じ、輝くばかりの鮮やかな琥珀色の目をしていた。
そのせいだろう、サキとは随分雰囲気が違うものの、男性とサキに血の繋がりがあるのだということは、よく分かった。
『本当に噂通りの人格者なら、あたしが流星街で育つワケないってのに』
サキは呟いて、映像を黒く塗りつぶした。
私は、彼女が呼吸を整え、再び話し始められるようになるのを、じっと待った。
彼女はゆるりとした手つきで、髪を耳にかける。
『……母は、美人だったわ。そして、いわゆる娼婦だった。ま、婚外子ってヤツね。母は、アイツを……父を愛していた。だから、その繋がりを絶たせないために、お腹が目立ってくるまで……つまり堕ろせなくなるまで、あたしのことを誰にも話さなかった』
サキの記憶の中、女性がこちらにゆっくりと振り返る。女性は、緩くウェーブのかかった黒髪を胸ほどまで垂らしており、涼しげな切れ長の目元が印象的だった。
──この人が、サキのお母さん。