第6章 周囲の目
徐々に教室内に人が入ってくる。
「おっ、珍しいな」
森山の声に顔を上げた。
「あっ、おはよ。早くない?」
「早めに切り上げたんだ。それで、ん」と教室の入り口を指差す。
「あっ…」
「おはようございます‼あの…アド(レ)ス交換して下さい」
昨日の様に、また深々と頭を下げた。
その様子がなんだか可笑しくて、クスクスと笑うと、
何故か森山の手が頭に乗る。
「そうしてると妹ちゃんに似てる」と頭を撫でられた。
あっ、そうか。
未菜に似てるから森山は私に絡むのか、さすがの森山もチームメイトの彼女はナンパ出来ないわけで、いわゆる『代わり』と言うやつか…
実際、それが正しいのかどうかは本人にしか分からないが、培われたひねくれた思考で、とても、残念な自己完結に陥ると。
「葉菜さんと未菜さんは別っすよ‼」
と、扉の前に立つ彼が言う。
「お(れ)、葉菜さんが好きっす!」
恥ずかしげもなく、そう口にする彼に
まだ、まばらな教室内がざわついた。
「ちょっ…。声大きいよ」
早口でラ行がうまく言えないらしい彼の言葉をどれだけの人が理解したかは不明だけど、
大声は勘弁して欲しい。
(本当に恥ずかしい…)
普段、平静な態度が多い私が、顔を赤らめて慌てる姿に、周囲の私を見る目が変わった。