【テニプリ】俺なしでは生きられなくなればいい【木手】
第1章 俺なしでは生きられなくなればいい
私の彼氏は何でも卒なくこなす。
苦手なものは天変地異くらいで、私の苦手な数学も、裁縫も、片付けも、涼しい顔でササッとこなしてしまう。
今すぐ一人暮らしを始めても、彼はきっと今と変わらない日常を送ることが出来るだろう。
進学していつか沖縄の地を離れる時がきても、永四郎のお母さんは何の心配もなく彼を送り出すのだろうな、と隣にいる永四郎を眺めて私は思った。
彼の手には、私の制服のシャツ。
先ほど甲斐君達とじゃれ合って取れてしまった3つのボタンを、永四郎の長くて綺麗な指が、教科書のお手本みたいな動きでシャツに縫い付けている。
永四郎は黙ったまま手元に集中しているから、私もその邪魔をしないように黙って彼の手元をじっと見る。
「…そんなにじっと見られるとやりにくいのですがね、美鈴」
はぁ、と永四郎がため息を一つ。
ちらりと目線だけこちらによこして、手元は相変わらず流れるような動きで糸と針を動かす。
私が同じことをすればきっと針をどこかに刺してしまうだろう。
「あまりにも美しい動作なので見とれていました」
私が素直にそう言うと、永四郎は一度だけ瞬きをして、また視線を手元に戻した。
「…大げさな。ただボタンをつけているだけなんだけど」
「そう、何気ない動作一つ一つが美しいのですよ、永四郎は」
「まあ美鈴よりかは、そうでしょうね」
さらりと嫌味を言う永四郎だったけれど、その顔はどこか意地悪い子供みたいな顔で。
そう言って私をからかっているような雰囲気があった。
だから私は永四郎の言葉に腹を立てるというよりか、いつもと変わらない私と永四郎のじゃれ合いが始まった、と考えていた。
「頭脳明晰、眉目秀麗、文武両道、えーっとあと…質実剛健?勤勉実直?うーんあとはねぇ…」
「なんでも言葉を並べればいいというものではないでしょ。過剰に褒めたてられても、かえって嫌味です」
「ごめん…でも私は本当にそれくらい永四郎はすごいと思ってるよ。私と違って何でも平均以上にやってのけちゃうんだもの」
誰にだって得手・不得手なものってあると思うのだけれど、永四郎には「不得手」の項目がほとんど見つからない。
それが羨ましくもあるし、少し悔しくもある。
初めてあげた手作りの穴だらけのマフラーも、永四郎は自分で手直ししてしまったし。