第4章 一松
『一松…兄ちゃ…っ』
『…うるさい、黙れ。』
『いた…いの…、』
一松兄ちゃんの頭に手を置き
力はいらない手で押し
痛みから逃れようとした、けど
『うるせぇって言ってんだろ!』
私の手を振りほどいた。
弾かれた時に叩かれた手が痛む
痛みがあちこちから襲ってきて
私はどこが痛いかわからなくなった
『お前はいつもそうだ…
薄っぺらい顔で笑いやがって
嫌いなら嫌えばいいだろっ
殺したいくらい憎んでんだろ!』
癇癪を起こし始めた
一松兄ちゃんは私の肩を押し
ベットへと押し倒した。
『それなのになんでお前は
何も無かったように笑うんだよ!』
『いち、まつにぃ…。』
『なんで…なんで…許してくれんだよ
お前はどうして…拒絶しないんだよ。』
涙が零れてきそうな顔で
私を覆い見下ろす一松兄ちゃん。
抑えられた状態では手を伸ばせず
掛けようとした言葉さえ届かない
まるで全ての行動が無意味のよう
本当に不器用な人だ…兄達は
嫌いになれ、拒絶しろ…
本当は望んでいないんだって
ちゃんとわかってるから、
『思ってないよ…。』
首を振って伝えても
一松兄ちゃんは肩を強く掴む、
信じられないと語っているようで
『うるさいっ…うるさいうるさい。』
何も聞きたくないと
一松兄ちゃんは耳を傾けてくれない。
ごめん…ごめんね…
苦しめてごめんね…一松兄ちゃん。
人から愛される事に臆病で
いつも自分の殻に閉じこもる…
どこか似ている…、
カラ松兄ちゃんと似ている。
一松兄ちゃんは好きとはいえない
愛を向けられるのも苦手である。
カラ松兄ちゃんは素直な人だから
言える…でも愛され方がわからない
愛について疎いのだこの2人は…
そして私は何が愛か…忘れてしまった
『…ごめんね。』
今の私に唯一言える…言葉だった。
『………っ。』
一松兄ちゃんが一瞬怯み
抑えていた手が少しばかり緩んだ。
お互い何を言うでもなく
ただ…ただ、見つめあった。
ぼろぼろな表情は心そのもの。
ガチャッ。
すると突然、自室のドアが
音を立てて開いたのである。
そこに立つ人へと視線を運んだ。