第2章 第1幕【集結】
嵐前の静けさ。そう感じてしまうほどに、この場は静寂に包まれそれと反する様に私の心は乱れていた。
「落ち着け、大丈夫。緊張しない、深呼吸深呼吸」
重ねた手を胸元に押し付け、もう何度目になるか分からない言葉を漏らす。
緊張するなんて、らしくない。そう思うのに、重ねた手は小刻みに震え、心臓は五月蝿いくらいに騒いでいる。
こんな事ではいけない。
考えれば考えるほど、冷や汗が滲み出てきて、唇が乾いていくのが自分でも分かった。
「うー……」
鏡に映った青白い顔を見て、呻き声が出る。
情けない、そう思いつつもどうにも落ち着かなくて、溜息をついた。
「会合があるのは今に始まった事じゃないのに……」
何故こうも気が重いのか。
そうさせる理由は何か。そんなのは――分かっている。
「あの空気苦手なんだよね……」
ピリピリと張り詰めた空気と、一向に交わることのない言葉のやり取り。
どちらもが苦手で、場にいるだけで気が滅入るのに。
場所は決まって安倍の屋敷。
会話の進行をするのも、安倍家の役目。
これは昔から定められたもので、当主となった私も従う他ないのだ。
「せめて1人じゃなかったらいいのに……」
呟いた時だった。
重ね合わせた掌が淡い光を帯びる。
その光が一際輝いた時、手の上には蒼い瞳に純白の尾を9つ持つ九尾がいた。
『1人じゃないよ、ボクがいるー!!』
脳内に直接語りかけてくるように響く声は、紛れもなく手の上で私を見上げる九尾のものだ。
「ごめん、雪のことを忘れてたんじゃないよ」
そう言って、白く柔らかな毛並みを撫でると、あんなに緊張していたのが嘘のように解れていく気がした。
『うんうん、元気だして! ボクはいつも傍にいるからー!』
それだけ言い残すと、雪の体はスーッと消えてなくなった。
多分、私の中に戻ったんだろう。
「ふふっ、雪に励まされるなんてよっぽど酷い顔してたんだなー」
だけど、それも雪の……自分の御霊の言葉によって変わった気がする。
他の派の陰陽師達とは分かり合えないかもしれない。
だけど、それでも私は荒御霊と変わってしまった御霊を救ってあげたい。
どんなにそれが大変で難しくても。
「私だけは、その心に寄り添いたいから」
決意を固めて、装いを白衣(しらぎぬ)へと改める。
長い黒髪も一つに束ねて。
皆が集った広間へと向かった。