【ツキウタ。】Legend of Moon Princess
第1章 出会い
Side:隼
事務所の廊下で、迷っている子を見つけた。
華奢で、猫みたいに細くて……綺麗な女の子。だと隼は思っていた。
声をかけたら「ふぇいっ!?」なんて、変な声を出すものだから、ちょっと久しぶりに笑ってしまった。
「お、俺男ですけど……」
(でも、声が女性だ。身体の線も)
別にいやらしい目で見ていたわけではない。
得意の、魔王の力で見破ったわけでも、決してない。
率直に彼はそう思ったのだ。
始と隼の2人と、頭一つ以上背が違う彼女――否、彼が、上目でみつめてきて。
わけのわからない感情に、隼は襲われていた。
声が。
何故だか、聞き覚えのあるような気がした。
懐かしいというか、優しいというか。
(どうしてだろうね……)
隼自身思い出せず、いつもなら怠惰の象徴である彼はこんな思考をするのもやめるのだが、なぜか頭を働かせたがる自分がいた。
一度見聞きすれば覚えてしまう記憶力を持ち合わせているのだが、その能力も、あてにならない。
ただ、隼自身ファーストインスピレーションがこんなに気になる、と感じた存在は……そう、隣にいる始以来であった。
始は、家のこともあったり、高校での全国統一テストで名前が挙がっていたり、もちろん今は良き友としてライバルとして……刺激的な存在なのは確かなのである。
タクトと名乗る彼にその始と少し似たような感情を持ち合わせてしまったのは、隼自身少し驚いていた。
「タクト。社長室に用があるんだろう? 行くぞ」
「……はいっ」
始を追うタクトに、前言撤回、猫ではなく犬のような愛くるしさを感じつつ、隼は思っていた。
(……なんだか、面白いものを見つけたね?)
Side:隼 End.