第4章 新しい一歩を
「で、なんでひかるがここに居るわけ?」
あのあと、状況的に体制が良くなかったので一度私はベッドの上に座った。ひかるは涼しい顔で
「怪我したからここに来て手当てしてもらった、荒瀬に」
にや、と笑い茜を挑発するように怪我をした手をひらひらとふった。茜は、私の分の荷物も持ってベッドまで移動し、私の隣にギシッと音を鳴らし座った
「へー、でも、そのあとのあの下心しかねえ行為はなんだったわけ?」
意外と挑発には乗らず、冷静にいう茜の横顔をじっと見つめていると、私にも火の粉がとび
「お前もお前だ!いくらいい人だって相手は男なんだぞ!?お前は馬鹿な上に阿呆か!」
「...ごめん」
熱が出ているから素直になったのか、気が弱くなっているのか、はたまた茜の真剣な瞳に折れたのか、ぽそっと出た言葉は本当の私が出てきたようだった。それを拍子にぼろぼろと涙が出た。
「ごめっ..ね、熱が..あるから涙もろく、なっちゃって..」
私の素直な泣き顔を見て大層驚いたのか、いままでの威勢がふっとんで、壊れ物を扱うような優しい声で
「大丈夫か?ご、ごめんな俺も大きな声だして」
慌てている茜をよそに、ひかるは自分の上着を脱ぎ、慣れた手つきで私に被せた。
「大丈夫、泣きたい時は泣いてもいいんだよ、強がらなくていい」
と私の背中をとんとんと叩いた。
茜はそれに対し、唸るように
「..ひかる、どうしてそこまで凪を構うんだよ..」
..?構う?私を?私はこの人に失恋したんですけど..
「んー、秘密。じゃ、俺は用が済んだからおいとまするよ」
と、上着をとり、そのまま保健室を後にした。
すぐ行くんだったら上着を被せるなよ..と思っていると
「...帰るかな、俺も」
「..っえ?」
苦笑いしながら立ち上がって伸びをした茜は自分の荷物を持とうとしている。
...まって、まだ謝らなきゃいけないことがあるの..
と、無意識に彼の服の裾を掴んだ。
「...まだ、居てよ..」
この気持ちも、涙も、揺れる視界と火照った身体も、全部熱のせい。だから少しくらい変わらない温度で
もう少し、このまま..まだ、貴方の傍にいたい。