第8章 食戟のソーマ―――四宮小次郎
プルルルルッ
「……チッ」
盛大に舌打ちをした四宮先輩、いや、小次郎さんは私の隣から腰を上げると鞄の中にあるスマホを荒々しく取り出した
「……はい」
明らかに不機嫌でドスのきいた声で電話に出る
その様子を目で追いながら私は火照った頬を冷ましていた
「ああ…………はぁ!?」
『………?』
小次郎さんはため息をつくと私をちらりと見て、「わかった」と電話越しの相手にそう言い、電話を切った
『何かあったんですか?』
「遠月の審査員、お前も来てほしいだとよ」
『え?私がですか?』
「ああ、どうやら審査員の一人が急に仕事が入ったらしい。
それで、遠月の卒業生でちょうど俺と同じ仕事をしてるお前なら調整が可能なんじゃないか、って堂島さんが言ったらしい」
『それで……私は………』
「行きたかったんだろ?」
『はい!』
私は大きく頷いた
今回の審査員はヒナコ先輩や水原先輩たちも来るらしい
私と同年代の人は来ないらしいが、それでも会えるのは嬉しいことだ
小次郎さんにもその事は伝わったのか私の頭を撫で回した
「俺がいない間はみずきに店を任せたかったんだが」
『アベルさんたちも居ますよ。大丈夫です』
「……ああ、そうだな」
そう言う小次郎さんの顔は暗い
昔、小次郎さんの才能に嫉妬した料理人が勝手にルセットを変え世間に信用されなくなったことがあった
それから、彼は周りを頼らず、信用しなくなってしまった
それでも、プルスポール勲章を取ってしまった
最近、私に対しても少しそんな感じがする
私たちは付き合っていて、厨房以外では小次郎さんは私に触れたがるけど、厨房では必要最低限意見を聞いてこなくなった
「俺はもう寝る。お前はどうする?」
『もう少しだけ起きてます』
「そうか。おやすみ」
『おやすみなさい』
私は小次郎さんが寝室に入っていくのを確認してから、小さくため息をついた
『………昔に戻りたいな……』
ベッドに入ると小次郎さんが背を向けていて眠っていた
『………もう寝ちゃいましたか?』
「………」
小次郎さんから返事はない
その代わりに規則正しい寝息が聞こえてくる
私は小次郎さんの背中に寄り添うようにして眠った