第26章 音駒がくえんさいっ!
じゃあ行くか。そう言われて着いてきたのは調理室…の隣の準備室。
個室に2人きりで、卒業前の告白を思い出す。
「お前と似てるんだよ。アイツ。」
不意にかけられた言葉にマサちゃんの方を振り向けば、ちゃっかり換気扇の下でタバコを吸っている。確か今年から校舎内が全面禁煙になっていたはずだ。
『全面禁煙はどうしたの。先生が破ってちゃ駄目でしょ。』
「このくらい許せ。あとは車の中くらいしか吸う場所がねえんだから。」
先ほどからの違和感。言葉の端々に浮かぶ疑問に首を傾げてしまう。まだ吸ってすぐの煙草を携帯灰皿で揉み消したマサちゃんはこちらに視線を向け、口を開いた。
「さっきの唐揚げのやつ。橘 立夏(たちばな りっか)。親が他界、唯一の親族の祖母が入院中。引き取り手なし。」
……は?
『いや、マサちゃん。生徒の個人情報…』
「………で、俺と一緒に住んでる。」
……は?
だからタバコ吸うのに気使うんだよな、と軽く言うマサちゃん。私の方は思考が追いつかず空いた口が塞がらない。そんな私を見ながらマサちゃんは苦笑している。
「やばい顔になってるぞ。」
『いやいや…意味がわからなくて…』
「俺、今アイツの代理人ってこと。驚いただろ。」
確かに。マサちゃんがそういうことを積極的に行う姿は見たことがなかったので驚いてはいる。
『学校から…』
「許可はもらってるし、多分そのために担任になった。校長の差し金。」
『ああ…』
あれか。私っていう前歴があるから…
今回は全然関係ないはずなのに、面倒ごとに再び巻き込んでしまったようで申し訳なくなってしまう。
罪悪感で俯いていれば降ってくる声。
「橘が卒業するまでは家に連れ込めねえな。」
冗談か、本気か。
顔をあげればいつもはやる気のない瞳が私を射抜く。
視線の強さに思わず目を逸らしてしまえば、くく、と愉快そうな笑みがこぼれ落ちていく。
「意識してんのか?いいねぇ。」
『からかわないでよ…』
「揶揄ってるつもりはねえんだけどな。」
説明も終わったしいくぞ、の声と準備室が開く音。
その光の眩しさに私は強く目を瞑った。