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I’m not prince

第3章 きずあと


 再び姫さんに支えられ、なんとか音を立てずに、ベンチに座る。
 呼吸を整えてから姫さんを見ると、姫さんの指から、たらーと、血が流れていた。そうだ、俺が噛んだのは……。
 顔を青くした俺に、姫さんは、笑って囁く。
「古傷が開いただけだから」
 古傷? 何かで切った治りかけの傷を、俺がまた開いてしまったのだろうか。
 俺は、本当に大丈夫か聞こうと、震える口を開いた。
 ――ぴろりろりん♪
 俺の携帯電話が、場違いの軽快な音を響かせる。Oh...
“どこのトイレに行ってんだお前”
「全く……。覗きとは趣味が悪いじゃないか」
 まだその場にいたらしい、王子サマのお怒りの声が聞こえる。
 す、すいませんすいません。つい、うっかり、できごころだったんですすいません……!
「! ……」
 姫さんが、俺の唇に人差し指を当てる。
「いや~、ごめんごめん。ちょっとおどかそうとしただけ~」
 姫さんが、明るい声で、プールサイドから出ていく。王子のため息が聞こえた。
「何でキミは、いつもここにいるのさ」
「掃除」
「すぐわかる嘘をどうしてつくのかなあ……」
 姫さんは、王子と親しそうに話す。あの王子が、一人の女の子と、とても普通に話しているのは、意外で……、姫さんは、王子にとって特別な女の子なのだと、嫌でも理解してしまう。
 彼女……なのか?
 俺は、陰に隠れながら、二人の様子を窺う。
 王子は、覗きがもう一人いるとは気づいていないようだ。呆れた様子で、姫さんと話している。
 俺は、どうすれば……。
 二人がプールから去っていく。若干、王子の方が前を歩いている。が、姫さんも、立ち止まることなく、行ってしまう。
 ……俺は、ビッチに弄ばれたんだろうか……。童貞をまだ、この身に抱いて……。
 ずーんと、重たい空気が襲いかかってくる。遅い賢者タイムにも苛まれる。俺は、何でこんなことを……。
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