第1章 魔界
私は幼い頃から、他の人には見えないもの────つまり、人ではないものが見えていた。
この世にはたくさんの人外が存在している。今、目の前にだってそんなものがありふれている。それは時に、幽霊であり、人の憎しみや怨念といった負の感情でもある。
そして、能力といってもいい、私の視える力のせいで、それはそれは散々な日常だった。人がまとっているオーラが見えた私には、彼らの本音などをすぐさま感じ取ることが出来た。知りたくもない本音を知ってしまった私にはもう、人を信用することが出来なくなってしまったのだ。
そう。
私は人間不信なのだ。
だから、友達なんて出来たことがない。
散々な人生だ。
そしてこれは、死ぬまで続くのであろう。
そのことを疑いもしなかった。
でも、変わったのだ。
私の人生が。
私の日常が。
がらりと、180度変わったのだ。
それは、私が20歳を迎えた4月5日のこと。
誕生日だからといって、特にすることがない私はただひとり、家の近くにある川原に寝転がっていた。
「もう20歳………。ああああ!もう散々っ!」
もうこの際、私の独り言なんて聞かれてもいい。本当に、散々で退屈でつまらないのだ。この世は。
そんな時だった。
目の前に、突如黒い渦が現れた。
「え………なに、これ………」
ほんの2m先にそれはある。
私は手だけを伸ばす。すると、手がその渦の中に吸い込まれそうになる。勢いよく手を引いたけど、私の好奇心は抑えられなかった。
「もし………これが全く違う世界に繋がっているというのなら…………私の人生が大きく変わるはず」
そんなわけないか、と変な妄想を繰り広げた私自身を嘲笑った。でも、どこかでそれを信じている私もいる。
「…………そんなわけ、ない」
それでも私の足は止まらない。その渦にどんどんと近づいていく。
吸い込まれそう。
この暗い暗い闇の中に溶けてしまいそうだ。
そして私はなんの躊躇いもなく、その黒い渦に吸い込まれるようにして中へと入っていった。