第3章 白銀の陰と陽 【R18】
めいが手にしたのはつるの恩返しだった
(懐かしいなぁ、お母さんによく読んでもらってた)
墨で書かれた挿絵はとても丁寧な書込がされ、絵を見ているだけでも心を豊かにしてくれるもの
「子供が出来たら読んであげたいな、光秀さんは、この物語知ってるかなぁ」
読み進めているうち心地の良い眠気に襲われ、眠りについてしまった
日も傾き、夕刻に差し掛かった頃、光秀のは御殿に帰ってきた
廊下ですれ違った女中にめいが来ていることを聞き、自室へと真っ直ぐ足を進めた
(待たせてしまったな)
褥を開けると、壁にもたれかかり、書物を開いたまま夢見心地のめいがいる
(無防備に寝ておったか、相変わらず呑気な顔だ)
いつくしむ眼差しを向け、そっとめいの唇に口付けを落とした
「う…んっ…ん?光秀さん?」
「待たせたな、おや?御伽話か」
「ご、ごめんなさい…私、ついうとうとと…」
「間抜けな顔を見せてもらったぞ」
「…ひ、ひどい…//」
(ま、間抜けって…)
「そう怒るな、これは、つるの恩返しとな?」
頬を膨らませためいが手に持った御伽話に目を向ける
「光秀さん、お母さんに読んでことないですか?」
「あぁ、記憶にない。町に住む子供は読んでもらうと聞いたことがあるが、俺は大人と同じ扱いで育ったからな」
(甘えたい年頃だってあったと思うけど…そんなこと言えない世の中だもんね…)
ここは戦国の世、武将とし性を授かった者は数え年で十歳を超えた辺りから元服し、大人として生きる
父や母に甘え生きることなど皆無と言ってもおかしくない
光秀にとって甘えるとは理解し難い事。人の心に入る事は好きを見せることと同じ
めいの真っ直ぐな気持ちに気づくにも、時間を要した。ひたむきに、真っ直ぐぶつかってくる姿。戦を知らぬ世から来たというめいにとって、いつ命を落とすか分からぬこの世で、誓った言葉が光秀の心を突き動かしたのだった
ーーー何者でもない、私は明智光秀と言う男性が好きなんですーーー
影を歩き、信長の左腕として動く事でもない、有名な戦国武将だからでもない、ただ、一人の男として貴方を好きだと
駆け引きなく、戦場から帰ってきた時、めいは涙を浮かべ光秀に飛び込んだ。