第23章 記憶喪失~家康~
安土城広間へ着くと皆、膳の前に座っている
「お待たせしました」
「失礼します」
二人は用意された膳の前に座ると上座に座る信長の声がかかる
「揃ったな。今宵は労いの宴だ、愉しむが良い」
信長の声がかかると皆、箸をつけ始める
「この料理は俺の自信作だ。皆、味わって喰えよ」
「頂きます」
膳には煮物、焼き物、汁物といい香りを漂わせている
「美味しい…」
(箸が進んでるなら良かった)
めいは美味しそうに料理に手をつけてゆく。横で黙々と家康も箸を進めるが気は張ったままの状態
「ほら、めい、どんどん喰えよ。これも美味いぞ」
大皿には湯引きされた鱧が白く輝き
「なんなら、俺が喰わせてやろうか?」
ニヤリと笑う政宗がそっと肩を抱き
「あ、あの…」
「政宗さん、俺が取り分け手渡しますから」
(油断できないな)
そっと政宗を引き離し小皿に取り分け
「ほら、食べなよ」
「うん、ありがとう」
めいに皿を手渡しまた箸を進める
「家康…」
「なに?」
「ありがとう。美味しいね。あ、お酒…呑む?」
「そうだね」
ぎこちない手つきで酌を始めると
「めい、俺にも酌をしろ」
「あ、はい…」
(信長様も元なら仕方ないけど…)
恋仲ではあっても、記憶は戻らぬまま。いつもならちらりと振り返り家康を見る姿もなかった
上座で酌をするめいを遠目に見守り黙々と箸を進めていると
「おや?家康、小娘を一人にしていて良いのか?」
(また面倒な人が来た)
揶揄い混じりの声、家康の横に居る光秀は読めない表情で問いかける
「良いも何も信長様の命、秀吉さんもいるから大丈夫でしょ」
「ふっ、分かってないな、家康、あれを見ろ」
光秀の視線の先を追うとそこには酒が回り説教を始める秀吉の姿が映る
(三成が怒られてるなら、まあいい)
「三成が怒られるのはいつもの事ですから」
「政宗に取って喰われても知らぬぞ?」
「忠告感謝します」
釈然としないまま時は過ぎ行き、気づけばめいは取り囲まれていた
(…三成の説教が終わったと思えば…)
暫く見守っていたが、業を煮やし席を立った