第23章 記憶喪失~家康~
数刻後、信長より安土城へ来るように命ぜられた
無論、めいと共にだ。記憶の戻らないめいを連れ出すのは正直抵抗がある
(政宗さんたの標的になる。いくら信長様も命ぜられたとはいえ…)
考え込んでいた矢先、声が掛かる
「家康…いる?」
「どうぞ」
「失礼します」
(失礼しますって…)
「立ってないで、そこ、座りなよ」
「あ、うん…なら」
ふたりの距離感は遠く抱きしめたくても抱きしめることを許されない
(だめだ、まだこの子を恐怖に陥れるだけだ)
「ところで、何?」
「あ、あのね、今日安土城へ行くんだよね?信長様に家康と来るようにって言われて…」
(めいの耳にも入ったか)
「半刻したら出るから、支度しておいて」
「うん。ただ…」
「なに?」
「私、行っていいのかな…」
家康の御殿に身を起き、時折、遣いとして安土城に出入りしていると秀吉からは聞いているが、失った記憶が大きすぎ混濁が酷くなる
「誘われたのはあんたと俺」
「う、うん…」
(ちゃんと絡まれないように俺が見てないとな)
「心配しなくていい。俺も支度するから、出来たら言って」
「わかった…あ、あの家康…」
「なに?」
「ありがとう」
戸惑いを隠せない表情の中、懸命に笑を浮かべ礼を述べるめいに心が傷んだ
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「めい支度できた?」
「あ、うん、出来たよ」
襖を開けると人形を握りしめ、髪を結い上げためいの姿が映る
(器用な所は無意識に残ってるんだ)
「それ」
「あ、これ…ずっと肌身離さず持ってたの。何故持ってるのか、思い出せないけど、安心出来るから」
「あんたが作ったくまたんって人形。凄く大事にしてたから、懐に入れておけば?」
「くまたん?そっか、お守りみたいなものだね」
「ほら、行くよ」
「うん」
懐にくまたんをしまい二人は御殿を後に安土城へ向かった
「もう日が落ちてきてるね」
「遅くなるから、今日は安土城に泊まるとこになるだろうね」
半歩後ろを歩くめい。その距離はとても遠く、深い溝のように思えてしまう