第10章 声に映し路と響 【R18】
「秀吉さんは信長様の事を心から心配されていますね」
「抜かせ。貴様、付き合え」
盃を渡され酌をされる
「え、はい、ああ…お酌いたしますね」
暫し盃を交わしほろ酔いになる
「あ、あの…の、信長様…」
「なんだ」
(信長様に…聞くのって不躾かな…)
「信長様は、悩んだりした時、どうされますか…」
「悩むだと?俺にはそのような事態は持ち合わせてはおらん」
「え…ま、迷ったり、悩んで考える事はないのですか…?」
「悩むなど無駄な事だ。俺は俺の道を進むだけだ」
(鳴かないホトトギスは殺す…だったよね確か信長様って)
歴史の授業で習った事がぼんやりと脳裏によぎった
「そうですか…」
「貴様は何を悩む事がある?」
「あ、いえ…」
「まぁ良い。酌をしろ」
暫し信長様とお酒を酌み交わし答えの出ない気持ちを酔いで誤魔化した
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二週間程過ぎた頃、新しい反物を買いに城下へ出た。三成の着物は綻び、秀吉にいい加減、新しい物を新調しろと言われていた為、仕立てることにした
(どんな柄がいいかな。三成くんは暗めの色は似合わないよね)
店へ着き、並んだ反物を手に取りどれにしようかと悩んでいる
気に入った反物が見つかった。半襟に丁度良い生地も見つかり、勘定を済ませ店を後にする
(良かった。これでいいもの出来そう)
少し城下を歩くことにした。久々に城の外に出ためいは活気に溢れた街並み、穏やかな表情の人々
(戦が起きていない今、皆活き活きしてて良かった)
並んだ店を見ては現代にいた頃、ウインドーショッピングをしていた事がなつかしく思えた
(よくアーケード街とか歩いてはお店見たりしてたなぁー)
懐かしさに少しばかり浸っていると見覚えのある後ろ姿が目に入った
(け、顕如…さん!?)
心がずきりと痛む。逢いたかった人の後ろ姿…針子の仕事に集中し、気持ちを紛らわせてきた…が、心の片隅に置いた気持ちは膨れ上がり、その後ろ姿をただただ追いかけた
(逢いたい…どうしても…一目でいいから…)
駆け足で顕如を追った。髪を振り乱し、なりふり構わずその姿を。その背中を…
(あそこは…秀吉さんの言ってたお寺だ)
顕如は以前、秀吉のから聞いた寺へと入っていった