第10章 声に映し路と響 【R18】
目を覚ましてから三日経つ。あれ以来顕如の顔を見る事はなかった。針子の仕事が入り、看病は家康と光秀が交代で行っていた
(顕如さん、少しづつご飯食べてるって聞いたけど…)
秀吉から経過は聞いていた。回復も早く、お粥を口にするようになったと。針子の仕事も目処がつき、顕如のいる部屋へと向かった
「あ、秀吉さん」
「めいか。針子の仕事は落ち着いたか?」
「うん、一段落したの。ありがとう」
屈託のない笑みを浮かべる秀吉はいつものように優しく頭を撫でる
「そうか、なら良かった。ああ、そうだ、これを顕如から預かった」
「え?顕如さんから…??」
(どういう事??)
状況がいまいち掴めないめいとは裏腹に表情が曇る秀吉
「顕如はここを去った。朝、一文が置かれていたんだ」
(…まだ完治してないんじゃ…)
「ど、どうして…」
「一度は信長様の首を取ろうと目論んだ男だ。いつまでもここには居られないと思ったんだろう」
信長を恨み復讐を誓った事、全ての差金は信頼していた筈の僧侶達だった事、消えぬ悲しみ、行き場のない感情が顕如の中に蠢いているのだと秀吉はめいに話した
「この文には世話になったと書かれていた。恐らく安土の外れの寺に言ったはずだ」
「ど、どうしてわかるの??」
「顕如を連れ帰った時に、信長様が仰ったんだ。そこの僧侶として生きろと」
安土の外れにある寺の住職はめいがタイムスリップする少し前に亡くなられた。高齢だった住職は生前、信長の事を大事にしてくれた方だと秀吉は言う
「その寺で亡くなった住職の跡を継いで一からやり直せと言いたかったんだと俺は思う」
「そっか…。信長様と和解出来るといいね…」
「あぁ、すぐは無理でもいつか、信長様の意志が件にに伝わればいいな」
秀吉から文を預かり自室へと戻った。文を広げると綺麗な字で世話になったと書かれている
(顕如さん…何も言わず去るなんて…)
この先、どこに行くか、どうするかなどは書かれていない。ただ最後に書かれていた言葉にはっと息を飲んだ
ーーめい、お前は清く美しい。その無垢な心のまま生きてほしいーー
「顕如…さ、ん…」