第10章 声に映し路と響 【R18】
「よかった…目を覚ましてくれて…」
膝の上で強く拳を握りしめた手に顕如の手が添えられる
「どうして、俺はここに…信長を恨んでいる俺を助けるなど…」
苦悩に溢れた顕如の表情に心がずきりと痛む
「そんな事言わないでください…顕如さんに生きていてほしいんです…だ、だから…」
視界がぼやけ、涙が頬をつたう。泣いている場合じゃないとわかっていても、止めることが出来なかった
「何故だ、何故お嬢さんが泣くのだ…」
そっと指で涙を拭う顕如の表情がまた歪む
「あなたは復讐鬼なんかじゃない…本当は誰よりも優しくて…真の強さを持った人です」
(例え信長様を恨んでいても、いつも助けてくれた…優しく手を差し伸べてくれていたのは顕如さんだよ…)
「命を粗末にしないでください…あなたを待ってる人がいるはずです…」
「お嬢さん…」
顕如の心の傷の深さを全て理解するなど綺麗事にしか過ぎない、そう分かっていても彼の優しさや、情の深さ、差し伸べてくれたその手の温もりを伝えずにはいられなかった
「顕如さんに何度も私は助けて頂きました…その優しさに嘘なんかないって思います。あなたは嘘なんかつけない優しくて強い人だから…」
ぽろりとまた涙がこぼれ落ちたが、真っ直ぐに顕如に向き直り目をそらすことなく告げると
「純粋なのはお嬢さんの方だ」
優しく頭を撫でられそっと胸に抱きとめられた
(え…)
驚きのあまり、そっと顔を上げると艶を帯びた目線で見つめられる
「け、顕如さ、ん…」
「めい…お前だけは俺を救ってくれた人間だ」
零れた涙を辿り唇が寄せられ、そっと唇と唇が重なった
「っっ!!」
(え…ど、どうして…て…)
優しく喰まれ、そっと唇は離れる
「堪忍な…」
僅かな時間触れただけだが、とても長く甘い口づけ。嫌と思う気持ちは微塵もなかった
「っっ…」
まだ完治していない傷口が痛み、顔を歪め小さな呻き声が漏れる
「…!む、無理しないで…横になってください!!」
「だ、大丈夫だ…」
額から汗が滲み出ている。家康の調合した薬を飲ませ、布団に横たえさせる
(今は気持ちを切り替えないと…)
火照る顔と感情をなんとか押し殺し顕如が眠りにつくまでただただ側に居た